伝統を守り続ける花火業界

夜空を彩る夏の風物詩、花火。その歴史は古く、日本では江戸時代から人々を魅了してきた。その花火が今、苦境に立たされている。
花火大会は全国毎年約1700カ所で開催され、7000万人以上が訪れる。しかし、新型コロナウイルス流行により、昨年で85%、今年は90%が中止となり、花火業界は大きな打撃を受けた。
だが数は少ないが、テーマパークやアミューズメント施設を含め、開催に踏み切った大会や規模を縮小して開催する大会もある。このように花火業界は、苦境の中でも日本の花火の伝統が途絶えないよう、さまざまな取り組みを行っている。
そこで今回、伝統を守り続ける花火製造販売会社の日本橋丸玉屋の小勝敏克さんに取材した。

日本橋丸玉屋社長 小勝敏克(おがつとしかつ)さん(写真=提供)

新しい花火の形

近年、新しい花火が誕生している。従来の花火は打ち上げた花火を見上げる形であったが、角度を変えたり、新たなテクノロジーを用いたりするものだ。

ハナビリウムと呼ばれる、プラネタリウムで上映される花火は、真下から見上げて鑑賞する。物語形式で花火が映し出され、立体音響とともに迫力ある映像が楽しめる。普段決して見ることのできない視点により、花火の新たな一面を知ることができるのだ。

ランドスケープ花火では、ドローンを用いて上空から花火を見下ろす。花火で地上絵を描き、カメラとドローンなどの技術を用いて、オンラインで演出される。無観客のため、コロナ禍でも楽しめるのが強みだ。

他にもクレーンを用いた、花火タワーがある。地上50メートルから360度全方位に打ち出される斬新な演出が見られるなど、新たな試みが多数存在する。デジタルコンテンツと花火という、新しいものと伝統的なものの融合によって、これまでにない花火への挑戦が行われている。

ハナビリウム(写真提供)
ランドスケープ花火(写真=提供)

日本文化としての花火

日本では、400年以上にわたって花火の歴史が続いてきた。幾多の花火師たちによって支えられ、花火は日本人の生活に深く根付いている。

日本の花火は、稲作文化や日本の自然由来の原料に基づく。私たちが花火として見ている光は「星」と呼ばれる。この「星」を外に飛ばすために使う割薬(わりやく)には、もみ殻をはじめ、米やのり(みじんこ)、和紙などが使われている。

また、日本には円形の花火が多いという特徴もある。花火玉が球体で、四方八方に火薬が広がることで花を開かせる。一方、ヨーロッパでは、茶筒型と呼ばれるロケットのような花火が多く上げられている。

このような特色ある日本の花火を、文化として確立しようという動きがある。小勝社長が会長を務める一般社団法人日本花火推進協力会は、文化と社会・人々のつながりを築く文化庁主催の日本博へ、3年連続で採択されている。これまで花火大会に足を運ぶことが難しかった障がい者や子どもと協力して、「誰もが楽しめる花火」に挑戦する取り組みだ。

さらに、文化としての花火を訴えることで、文化芸術基本法に基づく文化芸術推進基本計画への登録を目指している。

日本博のワークショップ(写真=提供)

花火師にとっての花火

最後に、小勝社長は「花火は人を呼び寄せる力が圧倒的にあり、何十万人を虜にさせるが、火薬という危険物を扱うものでもある。人々が安心して見られるようにリスクを管理し、花火の魅力を伝えたい。そして、観客に満足してもらえる方法を追求していきたい」と語った。