大学教員が語る「エイズ」 文学部教授 樽井正義君

エイズとは、HIV感染症の最後の段階を指します。HIVというウィルスに感染すると、ヒトの免疫を司る白血球が壊され、免疫力が下がってさまざまな感染症を発症しやすくなります。この状態を後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome)といい、頭文字をとってエイズ(AIDS)と呼びます。
HIVは、人体から人体に直接移動しなければ感染しません。おもな感染経路は3つで、最も多いのが性交渉での精液や膣分泌液による感染、次いで輸血や静脈注射など血液を介した感染、そして母子感染。母子感染には、妊娠期間中の感染、産道を通ってくる際の血液感染、母乳による感染があります。
感染を防ぐためには、「ウィルスがどこにあるのか」「どのようにして感染するのか」を考えればいい。性交渉について言えば、1回でも感染する人はいるし、何回行っても感染しない人もいますが、予防するかしないかが重要なのです。コンドームの使用が一番完璧な予防法ですね。静脈注射は医療行為としてではなく薬物使用の際に、人が使った注射器を十分に消毒せずに使い、感染経路となっています。母子感染は、母親に投薬しウィルス量を減らすこと、出産の際に産道を通さず帝王切開を行うこと、そして子供に母乳を与えないことによって、日本では感染率を0%にすることができます。
HIVに感染してからエイズが発症するまで、平均して10年ほどかかります。HIVに感染した人をHIV感染者、エイズが発症した人をエイズ患者といい、合わせてHIV陽性者と呼びます。
世界に目を向けてみると、HIV陽性者の約7割がサハラ以南のアフリカに集中していますが、近年やっと途上国にも治療法が普及し、エイズで死ぬ人の数は減ってきました。逆に今後感染の拡大が予想されるのはアジア。エイズの流行はまず、セックスワーカーとその客、静脈注射による薬物使用者、同性愛者の間で起こったのち、一般人口の異性間感染による流行が始まります。アジアではまだ広汎な流行に至っていないため、今後感染者が増加する恐れがあるのです。
現在、日本における陽性者数は増え続けており、昨年1年間の陽性者報告数は1500人を超えました。増加の背景としては、エイズに対する無関心から予防を怠っていることが挙げられます。
HIV陽性者の発生動向をみると、HIV感染者は20代、30代に多く、エイズ患者は30―50代に多くみられ、陽性者がさまざまな年代にわたっていることがわかります。エイズは若者だけの病気ではありません。
日本のエイズ問題において何が問題なのかと言えば、一番はやはり無関心でしょう。まずは自分の身を守るために、「どうしたら感染するのか」を知るべきです。
また、HIV陽性者と付き合っていくために、「どういう人が感染するのか」ということも知っておいてほしい。エイズの存在を最初に教えてくれるのは、セックスワーカーや同性愛者など、弱い立場に置かれている人たちです。私たちは無意識のうちに、彼らが自分の立場を明かせない状況を作り出し、同時に陽性者が陽性であることを隠さざるをえない状況を作っていることに気付かなければなりません。
さらに、エイズ問題に限らず、想像力を広げて、世界の問題を自分のこととして考える姿勢を身につけてほしいですね。1つの問題に対してどのような関わり方があるかを知ることによって、世界に対する見方が変わってくると思いますよ。
聞き手=田中詠美