新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、時短営業や、自治体からの休業要請が続く映画館。国内最多のスクリーン数を誇るイオンシネマ(94劇場、804スクリーン:2021年5月現在)を運営するイオンエンターテイメント株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:有馬一昭)ブランド推進部部長の中村光宏さんに、大手シネコンの今を聞いた。

コロナ対策への意識継続

観客および従業員を守るため、さまざまな感染対策に取り組んでいる(写真=提供)

新型コロナウイルス感染拡大防止策として、他の興行会社同様、検温、拭き上げによる消毒などに取り組み、大手シネコンでは唯一、1席ずつ間隔を空けた座席販売を継続している。また、飛沫防止として座席間にパーテーションを設置。ロール式や開閉式を取り入れるなど、複数人で来場する観客のニーズに合わせた感染対策を徹底する。

他の興行会社同様、検温などの感染対策に取り組む(写真=提供)

興行場法で換気が義務付けられている映画館は、コロナ禍以前からインフルエンザなどの感染症や花粉対策のため、きれいなスクリーン環境が求められてきた。定められた基準を満たしている一方で、コロナ禍でさらに換気が求められる中、昨年9月には、大型空調用ウイルス対策システム「トレイン・トリプルエアシールド」を、イオンシネマ幕張新都心に日本で初めて導入した。同システムは、飛沫が付着する集じんをフィルターで除去するほか、光触媒や紫外線によるウイルス除去効果がある。現在、全国各地の劇場で導入を進めている。

劇場の空調システムイメージ(写真=提供)

新しい映画体験を

2021年2月21日、イオンシネマむさし村山で実施された「ドライブインシアター」の様子。約150台の車内から、約500名が映画『2分の1の魔法』を楽しんだ。(写真=提供)

「くらしに、シネマを。」をブランドコンセプトとするイオンシネマでは、独自の映画体験の提供に取り組んできた。昨年からは、商業施設内の映画館であることを活用し、商業施設の駐車場に停めた車内から映画を鑑賞する「ドライブインシアター」などを実施している。

親しい人のみが同じ環境にいることでコロナ禍の映画鑑賞に安心感を与える「ドライブインシアター」の実施には、さまざまな反響が寄せられたという。「現在のシネコンスタイルが普及する前からあったドライブインシアターを知っている中高年世代からは懐かしいという声が多く寄せられた。一方で、小さな子供にとっては新しい体験だったようだ。昔からあったものでも、新しいエンタメの届け方ができることは発見だった」と現状を分析している。

4回目の実施となるワンデーフリーパスポートは、2021年6月30日(水)まで、実施される。(写真=提供)

5月14日から6月30日にかけて実施中の企画が「ワンデーフリーパスポート」だ。当日の上映開始から最終上映まで、映画が1日観放題で、売店で販売する対象ドリンクも飲み放題となる。昨年7月に初実施したところ、大きな反響があり、今回が第4弾だ。値段を改定し、有料会員サービス「ワタシアタープラス」の会員は2600円、一般価格は3100円。今回からは、プラス500円で、横幅約2倍、足元の広さが1・5倍の「アップグレードシート※」を一日に何度も利用可能だ。

イオンシネマ市川妙典のアップグレードシートの様子。座席間に設置されたパーテーションは、飛沫防止策となるだけでなく、周囲の様子が見えないことでスクリーンに集中できるとの反響もあった。(写真=提供)

※アップグレードシートは一部劇場のみ
https://www.aeoncinema.com/event/future_theater/

「『いろいろな作品をたくさん見たい』というお客様の声を反映させたワンデーフリーパスポートの実施は、私たちにとってもチャレンジだった。動画ではサブスクリプションが主流となる中で、映画館は観放題をやったことがなかった。映画館は密閉空間であると敬遠する声もあったが、お客様に映画館はきちんと対策をしているから安心だと感じていただき、ゆっくり映画を楽しんでほしいという思いで実施している」と導入経緯を明かす。現在のワンデーフリーパスポートは、有人窓口のみでの取り扱いだが、システムを向上させ、より利便性を上げることで多くの人に利用してほしいと話す。

「映画を生活必需品に」

各自治体の要請に従い、休業判断を下してきたイオンシネマ。今後は、映画館の安全性への理解を集めるとともに「映画も生活必需品」になるような情報発信を行っていきたい考えだ。(写真=提供)

新作の公開延期で懸念されるのは「映画離れ」だ。「新しい作品を観るために来ていたお客様が他のエンタメへ流出する恐れがある」と不安を募らせる。一方で、基本は新作を上映するシネコンにとっては、過去作品の上映というニーズに応える契機でもある。「テレビでPRが行われる新作とは異なり、過去作の上映が行われていることは映画館が宣伝しないと知ってもらえない。スクリーンが多いというシネコンの強みを生かし、過去作品を含むたくさんの品ぞろえで、ずっと映画を絶やさないことを意識したい」と話す。

新型コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言で、映画館は休業要請対象施設とされてきた。各自治体の要請に従い、休業判断を下してきたイオンシネマ。今後は、映画館の安全性への理解を集めるとともに「映画も生活必需品」になるような情報発信を行っていきたい考えだ。

誰もが一度は観たことがある、映画というエンターテイメント。中村さんは、映画を観ることでより豊かな毎日が送れると考えている。「好きな映画を尋ねられたら、誰もが答えられるだろう。印象に残ったエンタメは、人生のバイブルになる」と映画の重要性を考えている。

近年、若者を中心に、スマートフォンで閲覧できる動画配信サービスで映画を観るのが当たり前になってきている。中村さんが大学生世代に問いかけたいのは映画館で映画を観ることの価値だ。「2時間だけスマホをおき、映画館で映画を観てみてほしい。スクリーンに自然と集中するはずだ。授業を受けるにあたって、学校に行かなくても満足できるとは思わないはず。それはエンタメも同じだ。その場でしか体験できない『生のエンタメ』を味わってみてほしいというのが当社の思い」と語る。

コロナ禍で、エンターテイメントのあり方は、変容を求められている。コロナ禍で生み出された新しいエンターテイメントはこれからも残っていくだろう。そして、映画館で映画を観る醍醐味をより多くの人に届けるために、イオンシネマは独自の映画体験を提供し続けていくに違いない。

(塚原千智)

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