慶應塾生新聞会 三田オフィス

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《震災10年特集》震災から10年、大堀相馬焼の今

300年以上の歴史を持つ大堀相馬焼は、福島県浪江町大堀地区を中心に発展してきた伝統的工芸品である。特徴は、大きく三つある。一つ目は二つの湯飲みの口元が一つにまとめられる二重焼きという構造だ。熱い飲み物も持ちやすいという利便性だけでなく、職人がろくろで一つ一つ丁寧に手作りしているという温もりも感じることができる。二つ目は貫入という、焼いた直後には弾んだ音を楽しむこともできる青ひびだ。そして三つ目は器に描かれる、左向きの馬の絵だ。これは「右に出る者がいない」という縁起の良い意味合いが込められている。鎌倉開府前から続く、馬を素手で捕らえて神前に奉納する神事「野馬懸」が由来とされている。1000年以上地元、相馬地方の人々に楽しまれる相馬野馬追の神髄だ。

そんな由緒のある地域で人々から愛され続ける大堀相馬焼の伝統が、職人の高齢化に伴う後継者不足によって、深刻な危機に直面している。元々問題視されていた後継者不足に、追い打ちをかけたのは東日本大震災と福島第一原発事故だった。それまで大堀地区に23以上あった窯元が現在は別々の土地に移り、9窯に減少。震災から10年がたった今も大堀地区は帰還困難区域とされており、元の窯があった大堀地区での生産は、いまだかなわない。

大堀相馬焼の技術を受け継ぎ、次の世代につなげていきたいという、後継者不足への対策として、3年間という定められた期間で地域に貢献するよう発足した地域おこし協力隊。その職人枠に初めて就いたのが吉田直弘さん(25歳)。吉田さんが地域おこし協力隊として福島に移住することを決めたきっかけは、大学3年次に参加した大堀相馬焼のインターンシップだった。京都美術工芸大学で、工芸コースを選択していた吉田さんは、大堀相馬焼作りを体験した際に純粋にものづくりの面白さを感じたという。また、自身が大学で学んできた知識が存分に活かせることや、ある陶芸教室の先生の「面白いことを見つけなさい」という言葉が、吉田さんの背中を押した。

吉田さんは、今年で地域おこし協力隊としての任務を終了し、来春からろくろ職人として独立する。この3年間の成長ぶりを問うと、ものづくりに対する考え方が大きく変わったと話す。「当初は、自分の好きな工芸に携わり、自分の好きな作品を作れればそれでいいと思っていました。でも、この地で多くの人と触れ合いながら過ごすにつれて、自分がすべきことはものづくりに留まらず、地域づくりなのではないかと感じ始めました。作品を作ることに加え、それを途絶えさせない環境づくりの大切さにも気づきました。」と語る。「地域をつくって人もつくる」これが今の吉田さんの指針だ。皆が同じ目標を持って協力することも伝統の継承、地域の復興には欠かせない。地域おこし協力隊の任務期間が終わっても、福島に残り大堀相馬焼を作り続けると決意した吉田さんを支えるのは、地元の人達の感謝の言葉と笑顔だ。

秒針が止まったままの時計。棚から崩れ落ちた多くの陶器。あの悲劇は決して薄れない。苦難を経験した地域で受け継がれてきた大堀相馬焼という伝統は、これからも多くの人の愛によって紡がれていく。吉田さんをはじめ、次世代へと継承されることで、伝統に新しさが交わる。大堀相馬焼の伝統が、今、希望に満ちた変化を遂げようとしている。

 

(古嶋凜子)