塾生ならば絶対に知っておきたいことを、様々なトピックから厳選してお届けするこのコーナー。記念すべき(?) 第1回のテーマは『気象の防災・減災 -備えることは “命を守ること”-』だ。

毎年のように発生し、ますます激甚化していくとされる気象災害。どんな気象災害があるのか、命を守るために私たちは何をすればよいのか。今回は、気象庁 大気海洋部 気象リスク対策課の防災気象官 髙橋賢一さんに、話を聞いた。

 

今後発生しうる気象に関する自然災害は?

昔から、日本は数多くの気象災害に襲われてきた。特に近年は、毎年のように大雨や台風が猛威をふるっており、2019年の台風19号や2020年の九州北部豪雨など、各地で大きな被害が出ている。こうした気象災害は、今後ますます激甚化していくと考えられているという。

まずは、近い将来に日本を襲うことが懸念されている「気象に関する自然災害」について聞いた。

 

Q. 日本では、気象に関するどのような災害が起こる可能性がありますか?

A. 気象に関係して特に重大な災害を引き起こす現象としては、大雨(土砂災害、浸水害)、洪水、暴風、暴風雪、大雪、波浪、高潮が考えられていて、気象庁では、こうした災害による被害を防止・軽減するため、警報を発表します。

警報というと「よく発表されているな」と思うかもしれませんが、そういった情報が出たときには、私たちの短い期間の経験だけでは推し量れないような深刻な事態が発生する懸念があるのも事実です。また、“線状降水帯”に代表されるような、短時間に大量の降水をもたらす事象など、直前まで高い精度での予報が困難であり、わずかな時間しか対応のために確保できない現象も存在します。そういった場合は少しの対応の遅れが致命的になります。それから、台風のように、日本においては比較的時間の猶予がある事象ではあっても、災害をもたらす様々な現象が入り交じっていて、広域避難など時間のかかる事前対応が求められる現象もあります。

いずれにせよ、災害をもたらす現象は多種多様で、「前回はこうして対応できたから、今回も同じようにすれば大丈夫」というように、単に以前の経験をそのまま活かすことができるほど、気象に関する自然災害は甘いものではないですね

 

ことば ➤線状降水帯

次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50~300km程度、幅20~50km程度の強い降水をともなう雨域のこと

【引用元】気象庁HP 予報用語 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/kousui.html

 

線状降水帯と言えば、2020年の北九州豪雨など、近年の大雨災害の際にはよく耳にする言葉。こうした言葉を知っておくことも、気象災害について理解する第一歩になるはず!

それにしても、日本では気象に起因する災害がこんなにもたくさん発生するのだと驚愕……地震や火山の噴火などもあることを考えると、私たちはとんでもない地域に住んでいるのだと改めて実感させられた。

 

 

防災・減災のために取り組まれていることは?

続いて、防災・減災のために、気象のプロフェッショナルたちは今どういったことに取り組んでいるのだろうか。

 

Q. 防災や減災のために、どういったことに取り組まれていますか?

A. 気象現象が今後どうなっていくのか、高い精度で予測するために、予測に用いている数値予報の精度を上げるための技術開発は連綿と続けられています。

しかし、そのなかでどうしても不確定要素が入ることは避けられないので、不確定な要因の影響を“アンサンブル予報”と言った手法で評価する取り組みも行われています。このアンサンブル予報というのは、初期値にある観測(解析)誤差程度のわずかな違いや数値予報モデルの不完全性に基づくばらつきなどをもとに複数の数値予報を行って、それぞれの結果を統計的に処理する予測手法のことですね。

こうした技術開発などによって、例えば皆さんがテレビなどで目にする台風の進路予報などの予報の精度は、確実に向上してきています

 

ことば アンサンブル予報

【引用元】気象庁HP アンサンブル予報  https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/kousui.html

上の図は、2018年の台風13号の進路予想の際に用いられたアンサンブル予報。青い線は ”当初の解析による台風の進路予想”、オレンジ色の線は ”アンサンブルメンバーと呼ばれる予想モデル”、黒い線は ”実際に台風13号の辿った進路”。実際に台風が辿った進路は青い線の予想より東側だが、複数あるオレンジ色の線の予想の範囲内であることが分かる。

一方で、どれだけ高い精度で予測をしても、その予測を用いた気象庁の発表する情報が適切な形で活用されなければ、それは宝の持ち腐れとなってしまいます

これまでに大きな人的被害を出してしまった気象災害事例における様々な課題を踏まえて、気象庁においては、情報内容をどのようにして人々に伝えて必要な行動につなげていくのかについて、有識者も含めて検討を進めて、改善を図っているところです。

 

確実に天気予報の精度は上がってきている!でも、私たちが情報をちゃんと活用できなかったとしたら、それでは意味がない。どれだけ「危険です」と呼びかけたところで、呼びかけられた私たち側が行動しなければ、その情報は役割を果たさなくなってしまうのだ。情報の捉え方について考えさせられる言葉だった。