学生部就職・進路支援担当によると、19年度の慶大卒業者・修了者(博士課程を除く)は7892人であった。進路先報告者のうち、就職者数は5753人、大学院・学部進学者は1152人。就職率は74.6%、大学院・学部進学率は14.9%となり、昨年度の就職率74.3%、大学院・学部進学率15.0%とほぼ同値となった。

業種別就職先のデータ分析

全体としては就職率、進学率とも昨年と大きな変化はなく、売り手市場に陰りが出てきたとされる19年度も塾生の就職活動は順調であった。

近年、「学術研究、専門・技術サービス業」と「情報通信業」は徐々に増加傾向にある。「学術研究、専門・技術サービス業」とは、いわゆる飲食・宿泊等の「サービス業」とは異なり、法務・コンサル・広告等専門的な知識・技能等によるサービスを指す。「情報通信業」の増加は、世の中の変化から今後の発展性を感じる志望者や、雇用の環境が不安定な中で文系でも技術を身に着け自身の市場価値を高めたいと考える志望者の存在が背景に考えられる。

「学術研究、専門・技術サービス業」では、特にコンサルタント業への就職者が年々増えている。企業の側も情報サービスに関するコンサルタントの需要の高まりを受け、採用数が増えている様子が見られる。

一方で、例年塾生の就職先として1位が続いていた「金融、保険業」は今年度も減少傾向にあり、就職人数が1000名を下回った。これは過去5年間で最も少ない人数である。大量採用が徐々に落ち着き、強い志望なく安易に受けていた学生が減少した影響が考えられる。

また、例年塾生からの人気が高い総合商社への就職者数は、いずれも前年並みか減少の傾向となっている。

上位就職先のデータ分析

全学部の上位就職先のデータによれば、東京海上日動火災保険(昨年2位)、三井住友銀行(昨年4位)、三菱UFJ銀行(昨年3位)、など、昨年度と似た顔ぶれが見られる中、楽天が今年度は2位に浮上した。昨年度までも上位20位の中盤から下位に位置することはあったが、前年は学部卒業者で36名就職のところ、今年度は80名と大幅に数を増やしている。楽天は採用数の増加の他、以前から通年採用を行っており、イレギュラーな時期に就職活動を行う学生の増加を示唆している可能性が考えられる。

なお、3位に「慶應義塾」が入っているが、これは法人単位で就職先を統計処理しているため、慶應義塾大学病院に看護師として就職する学生が多い状況が反映されたものである。

新型コロナウイルス影響下での学生の視点の変化について

新型コロナウイルス感染症対策のため、直接的な接触を控え、オンラインでの選考を導入または増加する企業が増えている。「今後、この感染症対策が一時的なものではなく続いていく場合、特に初期の選考段階ではWeb面接等が主流になる可能性がある」と今村氏は言う。その場合、自宅のインターネット環境の整備や動画・音声通話のために必要な機器の入手もしくは自宅での対応が難しい場合は自宅外で機器や回線を利用できる場所を確認・確保しておくなどの事前準備が必要だ。また、「対面とオンラインとでは、人物の印象や評価されやすいポイントが異なることがあり得るため、情報収集や練習も重要」と分析した。

新型コロナウイルス流行による、全世界的な経済状況の悪化を受け、今後企業の採用活動が消極化する可能性はある。「ただ、ここ数年の就職・データを見ると、採用市場の変化はあっても、塾生は高い就職実績と自身の進路への満足度を維持していると感じる。どんな状況下においても、まずは学生生活に積極的に取り組み、自信を持って就職活動に臨んでもらいたい」と担当者は語った。

学生部から慶大生へのアドバイス

学生部就職・進路支援担当の担当者から、慶大生へのアドバイスをもらった。

⒈ まずは学生生活の充実を!

新卒採用市場では学生の人格や適性を理解するため、学生生活の活動について思考や具体的な行動を交えた質問が多くされます。中途採用と異なり、知識・スキル・資格といった業務に直接つながる要素はあまり気にされないことが一般的。勉学、課外活動、アルバイトなど、なんでも構わないので自分が興味・関心のあることに能動的に取り組み、自信を持って「頑張った」と思えることを経験しておくことが、何よりの就活対策となります。低学年の内から就職だけを見据えて自分の行動範囲を狭めず、色々なことに挑戦し充実した学生生活を送ってください。

⒉ 脱省エネ主義を心がけよう!

就職活動に対し、効率や楽に内々定を得ることだけを考え、自己分析や業界・企業研究を十分に行わないまま選考に臨む場合や、そもそもの志望社数が極端に少なくなってしまう場合があります。就職活動終盤の時期に、就職活動に苦戦していると相談に訪れる学生には、この2タイプのどちらかが非常に多いです。表面的な対策で済ませることや、検討する企業を最初から絞り込みすぎることは一時的に「楽」に思えても、就職活動全体ではマイナスに働くことを理解してください。さらに、卒業後の仕事への満足度等を考えればまずは丁寧な自己分析や業界・企業研究を行うこと、思い込みを捨て幅広い業界を志望先として検討してみてください。

⒊ 社会におけるビジネスの必要性を理解しよう!

具体性なく「社会貢献」という言葉だけにこだわりすぎる学生や、企業が「利益」をあげることに強い抵抗を示す学生が増えていると感じます。どちらも「利益」をよくないものと考えている点に共通点があります。

「利益」をあげることは私腹を肥やすことではなく労働者の生活を守るため、また技術・サービスの発展に欠かせない要素でもあります。企業が社会に貢献するためには必ず利益が必要であり、逆に言えば何かしらの商品・サービスを通じて利益をあげている会社は捉え方によってはいずれも社会貢献を行っています。

利益を生むことでどんなことが実現できるのか?自分の思う社会貢献とは具体的にどのようなことか? このようなビジネスの視点を就職活動にあたり持つことを期待しています。

⒋ 社会人としてのマナーに気を付けよう!

就職活動では、多くの社会人の方にお会いするでしょう。礼の仕方やノックの回数といった儀礼的なものだけでなく、相手に対する敬意と気遣いを言葉や態度に示してください。

電話、メール、対面いずれの場合も自分から名乗ること、お世話になった方には必ずお礼や報告のご連絡をすること、都合がつかなくなったイベントや選考があればキャンセルの連絡を入れることなど、間もなく社会人になる身として恥ずかしくない態度で臨んでください。

 

(金子茉莉佳)