[東京六大学野球レポート]早大戦・Enjoy Baseball


10月31日 慶大11-2早大 ○
11月1日 慶大7-4早大 ○

9月12日に開幕した東京六大学野球秋季リーグ戦は11月1日の早慶戦で全日程が終了した。明大戦で勝ち点を奪えず、優勝の可能性がない状態で早慶戦を迎えた慶大は2試合とも早大に圧勝。早大の秋季4連覇を阻止した。2位でシーズンを終えた慶大だが、最終戦に勝利して野球部から引退する4年生からは笑顔が見られた。

チーム状態を示したワンプレー

1回戦、エース・斎藤佑樹を先発起用しながら慶大打線に打ち込まれ大敗、秋季優勝のためには残り2戦の勝利が必須となった早大の2回戦、早大は3番、5番、7番以外の打順を入れ替えて臨んできた。

シーズンを通し、攻守に活躍した長崎��弥(右)。自身初のベストナイン賞も獲得した。
シーズンを通し、攻守に活躍した長崎正弥(右)。自身初のベストナイン賞も獲得した。

1回裏、早くも入れ替えの効果が試される場面がやってくる。1死1、3塁で打者は6番から4番に昇格した原。3球目に1塁走者が盗塁し、2、3塁の早大にとって絶好のチャンス。しかし、次の球で早大ベンチは原にスクイズを命じた。これを長崎正弥(3年)が見破り、ウエスト。3塁走者がアウトとなり、2球後に原はファールフライ。慶大はわずか3球で大量失点のピンチを脱した。次の攻撃で慶大打線が繋がり、4得点。今季初先発の小室潤平(4年)は「久しぶりの先発でどう入ろうかと考え過ぎていたところだったので、この試合で一番大きいプレーだった」と振り返った。不安定な立ち上がりだった小室を救っただけでなく、チーム全体に「行けるぞ」というムードをもたらしたプレーであり、完全に流れが慶大に傾いた。4球目にスクイズを失敗した原は2球目と3球目にもスクイズの構えを見せていた。揺さぶりをかけようとしたのが結果的に慶大のスクイズに対する警戒を強くした。優勝へのプレッシャーからくる焦りが出てしまったように思える。

早大にとっては前日2併殺打の山田とシーズン打率1割台前半と不調の原の入れ替えは苦肉の策だったのではないか。慶大はこの試合も不動のオーダーであり、全12試合、投手以外は全く同じオーダーで臨んだ。打線が好調な上、優勝がない状態のために思い切って戦えた慶大と、打線の不調に優勝へのプレッシャーが重なった早大。チームの状態を示すプレーであり、この時点、もしかするとオーダー発表の時点で勝敗はほぼ決まってしまっていたのかもしれない。

「打ち勝つ野球」の結実

「結果としては満足できるものではないですが、チーム作りという意味では最高のチームが作れたかなと思いますので、そういう意味では満足しています」 (相場監督・早大2回戦後のコメント)

主将としてチームを牽引した漆畑哲也。積極的な打撃で打線の起爆剤となった。
主将としてチームを牽引した漆畑哲也。積極的な打撃で打線の起爆剤となった。

4年前に相場監督が就任し、「打ち勝つ野球」をテーマにチーム作りが行われたが、その実打線が繋がらず、加藤幹典(07年度卒・現東京ヤクルトスワローズ)や相澤宏輔(08年度主将)、中林伸陽(4年)ら投手陣に頼りきるシーズンが続いた。今シーズンになって、安定した投手陣を軸としたチームに、ようやく強力な打線が加わった。

今季の慶大打線は非常によく打った。チーム打率はリーグトップの.303、得点も最多の75(1試合当たりの平均得点は6.25)を数えた。打率2位の早大(.267)、得点2位の明大(56、1試合当たりの平均得点は4.3)に大きく差をつけている。さらに、1得点するのに要した安打の数は1.6本(125安打で75得点)。他に2本を切ったのは明大だけであり(1.9本)、打線の繋がりから見てもリーグで最も強力な打線であったことを示している。

立大戦の記事でも述べたが、「積極性」もこのチームのキーワードであり、それは最後まで変わることがなかった。早大との1回戦、先頭打者として打席に立った漆畑哲也主将(4年)は2球続けてストライクを見送った後、空振り三振。続く渕上仁(3年)、山口尚記(3年)も初球見逃しから三振を喫し、3者連続三振と最悪のスタートとなった。次の回の攻撃前、選手間で積極的に打つことを確認し合ってからは本来の積極性を取り戻し、毎回走者を出して、早大投手陣にプレッシャーをかけた。

漆畑はその後4打席は全て初球をスイングし(空振りを含む)、3安打。2回戦で5打数4安打と大当たりした山口尚記(3年)に至っては、4安打のうち3安打が初球。5打席でわずか7球しか投げさせず、その全てをスイングした。チームとしても2回戦の全11安打のうち、ファーストストライクをスイングした打席での安打が10本だった。試合後の漆畑主将への取材で「積極的に打つ」という言葉を聞かなかった日はない。チーム全体での徹底が実を結んだといえるのではなかろうか。

4年間の監督生活を「自分自身が試行錯誤する中で選手と一緒に成長させてもらった」 (相場監督・早大2回戦後のコメント)と振り返ったが、今シーズンのチームが相場監督就任後の4年間で最高のチームであったことは間違いない。勝ち点こそ3で優勝に届かなかったが、勝率では優勝した明大を上回った。それだけにこのチームの戦いをもう見ることができないのは残念で仕方がない。しかし、既に1、2年生による新人戦が終了し(2季連続の準優勝)、チームは来季へ向けて動き始めている。近日中に新監督を含めた来期のスタッフも発表されるだろう。「来年こそは天皇杯を勝ち取ってほしい」。3年生以下の選手たちへの期待はこれしかない。退任する相場監督、卒業する4年生にはこう声を掛けたい。「楽しい野球をありがとう。このチームは強かった!」

文:湯浅寛
写真:有賀真吾
取材:湯浅寛、安藤貴文、有賀真吾、岩佐友、劉広耀、井上史隆