本紙が新たに入手したリクルートキャリア内部資料に、内定辞退予測を含むDMP(=キーワード解説)を活用した「パイロット商品」の概要が記されている。それによると、同社は当初「広告配信最適化」「採用プロセス最適化」「志望状態モニタリング」という三つのサービスを開発する準備を進めていた。資料には、いずれも「本格導入」を念頭に置いたものである旨が明記されている。

この「志望状態モニタリング」こそ、後に「リクナビDMPフォロー(=キーワード解説)」として提供される内定辞退予測の初期構想だ。一方で、実現されなかったサービスもある。それが、二つ目の「採用プロセス最適化」だ。

AIが合格者予測

当時開発中だったこのサービスの趣旨は、企業ごとに過去の内定者傾向をAI(人工知能)が学習し、採用選考に応募した就活生の「合格可能性」をスコア化するというもの。つまり、企業の採用活動を効率化するため、AIがあらかじめ「合格しそうな人」を絞り込むのだ。

リクルートキャリアは今年2月、取材に対して「当社としては開示すべき情報は全てオープンにした状態。『合格可能性』のようなサービスが提供された事実はない」とした。その上で、本紙が入手した資料の内容について「研究開発のかなり早い段階で出ていた話」であると認めた。

「合格可能性予測」の構想が記されたリクルートキャリアの内部資料

「まさかそんなものが」

「合格可能性予測」は実現しなかったにせよ、その設計思想は内定辞退予測に引き継がれていた。

今年から新卒事業を統括する責任者は「リクナビDMPフォローでは、企業ニーズを先に考えてしまった。これからは、まず学生の要望に応えるところから発想したい」と反省を口にする。

「就活ビジネス」の最大手でなぜ、学生よりも企業の視点が優先されるようなサービスが生まれたのか。

日本経済新聞が、就活生の同意なき内定辞退予測の実態を初めて報じたのは19年8月。「当時はまさかそんなもの(サービス)が世に出ているとは知らなかった」と語るのは就活生ではなく、同社のある社員だ。

リクナビDMPフォローのプロジェクトは、社内の限られた部署でのみ検討されていた。大学での説明会などを通して現役の学生と多く接点を持つ社員がいる部門もあったが、そうした社員の目には触れることなくサービス実現へと突き進んでいったという。

「報道が出た時点では、このサービスが学生にどう受け止められるのか、社内の人間も全く想像できていなかった」と広報担当者は振り返る。

個人情報保護委員会は同月、リクルートキャリアに対し初めての勧告を出した。勧告は、同社が取り扱う個人情報について、その扱い方次第では「学生等の人生をも左右し得る」とまで言及した。

リクルートキャリアが問題の原因に「学生視点の欠如」を挙げたのは、その後のことだ。

会員数横ばい

同年12月の東京労働局による指導をもって、リクルートキャリアに対する行政調査は区切りを迎えた。

同社は今年1月から、新卒事業の運営体制を刷新。企業取締役や大学業務経験者などから構成される「学生・大学・社会レビュー委員会」が新たに設けられ、今後全てのサービス提供には同委の承認が必要となる。

しかし、肝心の就活生はリクナビに戻ってくるのか。担当者によると、2月下旬時点では「会員数、ログイン数、エントリー数ともに前年同期比でほぼ変わらない」状況だという。

ただ、19年8月に行われたリクルートキャリアの会見では、記者からこんな指摘もあった。

「リクナビほどの立場では、(学生が)そのサービスを使えないとなると不利益も生じるのでは」

採用選考の効率化のため、リクナビを経由しなければ応募できない仕組みをとる企業も多い。就活生は、就職活動の「入口」であるリクナビを信頼せざるを得ない状況に置かれている。

就活生の信託に応え、公平・公正な採用活動へ道を開けるか。内定辞退予測は、リクルートのみならず全ての就職支援事業者に、基本的かつ重い課題を突きつけている。

(おわり)