《いま、メディアの新時代を考える》プラットフォーム運用における理想と現実とは 夏野剛さん

株式会社ドワンゴ代表取締役社長 夏野剛さん

IT革命によって個人の情報収集能力が向上し、ニコニコ動画などの動画サイトではメディアと関係のない一般の人々でも情報を発信することが可能になった。情報が飛び交い常に変動する社会を夏野さんはどのように生き抜いて来たのか、そして個人が発信できる今後の社会をどのように考えているのか、話を聞くことができた。

 

SFCでの「ネットワーク産業論」

夏野さんが慶大特別招聘教授に就任した経緯には、慶大政策・メディア研究科委員長である村井純氏との交流がある。

2008年3月、夏野さんがドコモを退職することが新聞で報じられた。その直後に海外出張のために搭乗した飛行機で、村井氏と隣同士になった時のことをこう振り返る。

「夏野さん『NTTやめるの?』と聞かれて。そしたら二言目には『SFCね』って言われました」。その2週間後、特別招聘教授としてSFCで教えることになったという。

このような経緯を経て、SFCで「ネットワーク産業論」が開講された。講義では、ITが人々の生活や経営などの社会全般に、どのような影響を与えているのかといった内容を中心に扱っている。

いわゆる経営戦略や流通などの社会全般の仕組みが、テクノロジーによってどの程度変わり得るのか。変化への潜在力を持つ日本でなぜ変化が起こらないのか。このような問題を学生のうちに正しく理解してもらおうという授業である。

 

記者になるべき人のイメージを考えよう

夏野さんが考える日本の経営の特徴は、人々が業界区分を意識しすぎている点だという。ある企業において、その企業が属する業界の関係者のみが業務を遂行する。この意識が当たり前なものとして根付いている、ということだ。

その上で夏野さんは、「日本企業における『業界が区分されているという意識』、つまり産業の枠組み意識を取っ払ってほしい」と力強く訴える。

業界区分を超えてより良い結果が得られる例として、新聞記者が挙げられる。本来、財務省を取材するのに適任とされているのは、「過去に財務省に勤めた経験のある」記者だそうだ。記者が知り合いであれば、他のメディアに話していないような内容が漏れやすく、スクープが取れるからだという。

そのため、夏野さんはヘッドハンティングした人材を記者にするのが良いと考える。「本来、新聞記者にはどのような人がなるべきなのか、社会全体が考える必要がある。新聞社にいる人が本当に記者に向いているかどうかは、わからないはずだ」

 

多様性を受け入れるプラットフォームとは

そのような現状の問題を訴える一方、夏野さんは経営者として「こうあるべきだという理想は持っていない」とも話す。

つまり、プラットフォームの経営者側が単一の理想を持つのではなく、利用者に自由に委ねることで、多様性が生まれることを期待している、ということである。これは、ニコニコ動画や通信制のN高等学校を運営するにあたって共通する夏野さんの発想だ。

この発言には、社会が個人に求める枠組みに囚われず、自分の個性を多様性として提供できる場を守りたいという、夏野さんの考えが反映されている。「今の日本社会にフィットしないけど、好きなことを持っている人たちの受け皿になりたい」

 

「とにかくやってみりゃいい」

多様性を提供できる個人が、社会へ参入することへの期待を表した夏野さん。しかし、自身においては、「翻弄されながら生きています」と豪快に笑った。

そして最後に「自分が面白いと思えることにいくらでもチャレンジすればいい。とにかくやってみりゃいい」と学生にメッセージを送った。

 

(大塚麻友)

【プロフィール】夏野剛 (なつのたけし)

日本の実業家。株式会社ドワンゴ代表取締役社長など、複数の企業の取締役を務める。

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授。

株式会社NTTドコモにてiモードを立ち上げたメンバー。