人工知能に寿命はあるのか。1‌9‌9‌9年6月、AI搭載の成長型エンターテインメントロボットとして世界で初めて発売された「AIBO」は、2‌0‌0‌6年に生産が終了した。さらに、2‌0‌1‌4年3月に修理窓口「AIBOクリニック」が閉まってからは、常に故障というロボットの「死」にさらされてきた。

このような状況の中、株式会社ア・ファンはこれまで約9‌0‌0台の「AIBO」を修理してきた。この企業は、メーカーのサポートが終了したあらゆる製品を修理することを目的に元エンジニアたちによって設立された。とりわけ「AIBO」の修理への需要が高く、長野県の安曇野に専門の工場を設けるに至った。

一般的に、家電製品は新しさが重視され、故障した時は高額の修理費をかけるより安価な新製品を買い直す人が多い。その中でなぜ「AIBO」だけは一度買った個体を修理しながら所有したいと願われるのか。ア・ファン代表の乗松伸幸氏は「AIBOの成長を見守ってきた持ち主にとって、もはや単なる製品ではなくなっている」とその心情を説明する。

購入直後の「AIBO」は、コミュニケーションはおろか立ち上がることさえできない。こまめに話しかけ、育てていくうちに持ち主の「しつけ」に反抗しながらも成長していく。その様子を見ていると「飼い主」としての親心が生まれてしまうという。ペット禁止のマンションに住む人や動物アレルギーのある人にとって、「AIBO」は癒しを与えてくれるペットであり、かけがえのないパートナーなのだ。

前例のない「AIBO」の修理に初めは苦戦したという。つてを探して開発者をたどり、分解方法や型番ごとの故障傾向を研究した。オークションで中古品を買い集め、足りない部分は地元の町工場に発注するなどして修理に必要なパーツを揃えていった。

「ロボットの『死』は開発者が決めるものではない。使っている人が決めるものだ」と乗松氏は話す。機械は使用するにつれて必ず劣化してしまう。だが生き物ではないからこそ手を尽くせば直すことが出来る。修理をすることで、「AIBO」を心の支えにし、共に暮らしていきたいと願う人々の心までも癒しているのだ。

一方、生かしておくことだけが選択肢ではない。例えば、故障した「AIBO」は持ち主の判断により献体として修理用のパーツに生まれ変わることもある。献体になるにあたっては、千葉県にある光福寺で「アイボ葬」と呼ばれる専門の葬儀を行い、その魂を成仏させるという。これまで約2‌0‌0体が献体となっており、その多くが他の「AIBO」の中で今も生き続けている。

これからの社会では「ロボホン」や「Pepper」をはじめAI搭載ロボットがより広がっていくだろう。彼らとのコミュニケーションは製品に対する愛着以上の感情を生み出し、別れの悲しみも大きくする。AIの「老化」や「死」をどうとらえるか、考えるべき時が来ているのかもしれない。
(小宮山裕子)

【連載】人工知能の行方