慶應塾生新聞会 三田オフィス

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「感性の解像度」で色づく世界 佐藤可士和氏

AIの発達によって知的労働が人間の独壇場ではなくなった昨今、クリエイティビティの重要性がしきりに説かれている。

どうしたら創造的になれるのか。慶大特別招聘教授で東京・港区の国立新美術館のロゴなどを手がけたクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏に話を聞いた。

―クリエイティブな人の条件とは?
クリエイティブというとデザイナーやアーティストのものだと考えがちですが、ビジネスパーソンでもクリエイティブな人はたくさんいます。何より「クリエイティブなことをやろうと思っているか」が一番大事です。例えば運動しようとも思っていない人に野球やサッカーをさせても練習についていけないのと同じです。意外とそのことに気づいていない人が多いと思います。

―もう少し方法論的に言うと、クリエイティブであるためにはどうしたらよいですか?
なんでも興味を持って経験することです。インプットがないとアウトプットはできません。和食を食べたことがない人に和食は作れませんよね。

あと、僕がよく使う言葉に「感性の解像度」という言葉があります。感性は物事を感じ取る力なのでそのレゾリューションが低いと、解像度の低いスキャナーで読み込んでいることになります。これではダメ。どれだけハイレゾリューションで物事を感じることができるかが大事で、これは訓練で磨くことができます。ポイントは物事をぼんやり見ないこと。今、ここに炭酸水があって「おいしいな」と思ったとする。普通はそこで終わりますが、「なんでおいしいんだろう」と疑問に思ったり物事のディティールを見たりすることが大切です。ニュースでも授業でもそうだし、友達と食事をしたり、異性と付き合うときでもそう。分析を加えることで感性のアンテナが開いてきます。

―著書では美大生になる過程で培われたスキルが役立っていると言っています。美術を学ぶことはどう役に立つのでしょうか?
美術をやる中で「美しいということは人種や世代を超えてもある程度コンセンサスが取れそうな気がするがその要因は何か」などと考えたりすることは人間の本質に迫っていくことにつながります。   

また「美術とは何か」という問いは一言では表せないぐらい深い問題です。僕も高校生の時にアートの道に進もうと思った時からずっと考えてきました。友達と夜な夜な話し合ったりしても、全然その答えはわからないし、何が問題なのかさえもわからない。そういう正解のないことを考え続けたことは良かったですね。

やっぱり「美大生じゃないから関係ない」と思うのはすごくもったいない。アートやデザインに興味があったら勉強してほしいし、何より本物を見に行ってほしいです。僕は大学3年生の時にアート旅行としてヨーロッパに行きましたが、この体験はものすごく良かったと思います。ミロのビーナスを写真で見るのと実際にルーブル美術館に行ってその質感や大きさを肌で感じるのとでは大きな差があります。本物は一つの作品で何時間も考えることができるくらい情報量が多いです。

デジタルデバイスが発達して簡単に知識を得ることができるようになりましたが、そういうものからの情報は一元的です。本物に触れる経験を積んでいかないと「感性の解像度」は上がっていきません。
(聞き手=田島健志)