2月14日はバレンタインデー。大好きな彼へ送るチョコレートに悩む女子諸君、愛する彼女からもらうチョコレートに胸を踊らす男子諸君。チョコレートを口にする前にチョコレートの歴史を学んでみてはいかがだろうか。『チョコレートの世界史』(武田尚子著、中公新書、2010年発行)という本を薦めたい。

都市社会学・地域社会学を専門とする筆者が書いた本書は、単なるチョコレートの歴史にとどまらない内容だ。チョコレートについて様々な視点から述べられている。チョコレートの起源についてはもちろんのこと、チョコレートを巡る宗教的論争に、貿易、労働、広告、戦争など、各々興味を惹かれる章が必ずあるはずだ。

慶大三田キャンパスに通う塾生ならば誰もが見たことがあるであろう、田町駅のすぐ近くに位置する森永製菓の本社ビルは日本におけるチョコレート普及を語る上で欠かせない場所だ。カカオからチョコレートの一貫製造にはじめて取り組んだのは森永製菓である。1918年に田町の東京第一工場で日本におけるチョコレート一貫製造が始まったのだ。

筆者が執筆に至ったきっかけは、キットカットの産みの親、ロウントリー家のコレクションに興味を持ったことにある。その影響なのか、本書でもキットカットに関する記述が目立つ。

「Have a break have a kitkat」

というフレーズで日本に住む私たちにも馴染み深い、あのキットカットは1935年イギリスのロウントリー社によって作られた。ロウントリー家のシーボームは、貧困問題の調査においても功績を残している。彼が指揮したロウントリー社の工場は労働者にとって、理想の工場であった。手厚い教育プログラムや給料制度を始め、労働者によるクラブ活動など余暇の充実もなされた。

キットカットの広告の章を読めば、マーケティングについても学ぶことができる。広告の写真が載っており、時代と共に変化したキットカットの販売ターゲットが読み取れる。アメリカや日本への海外進出の際の手法なども知ることが出来る。たとえば、ティーブレイクの習慣がないアメリカへ進出する際には、老若男女を対象に浸透を図ったイギリスでのやり方とは異なって、子ども向けのテレビCMがオンエアされた。

本書を読み終えた私は、思わずチョコレートを口にした。今のような固形のチョコレートの歴史は100年余りと実は短い。しかし、本書を読むと、この褐色の宝石を巡る人々の営みは実に様々であることがわかる。今年のバレンタインはどんな物語を紡ぎ出されるのか、楽しみである。
(増田絢香)