【慶應塾生新聞会×英字新聞学会三田キャムパス】 シークレット・ライフ・オブパスワード

英字新聞学会三田キャムパスはニューヨークタイムズ紙のイアン・ウルビナ氏から現代社会で世界中の誰もが同じように所有する「パスワード」という普遍的テーマについて日本の学生の意見を集めたいという依頼をうけて、慶應塾生新聞会と共同で「パスワード」について大学生に話を聞いた。三田キャムパスの記事はこちら(英語) http://mitacampus.com/?p=1859 http://mitacampus.com/?p=1877


パスワードと聞いて思い浮かぶものは何だろう。セキュリティ性の高い、自分にしかわからないようなものを思い浮かべるかもしれない。しかし、パスワードの数文字の中に願をかけたり、大事な記憶をこめたりする人もいる。ニューヨークタイムズ(NYT)のイアン・ウルビナ氏は9.11以後、パスワードに関心を持ち、様々な人にその由来を聞くインタビューを行ってきた。家族の話、恋人の話、くすっと笑ってしまうようなエピソードから、その人の内面深くに関わるエピソードまで、たった数文字の情報から話は広がった。パスワードはセキュリティだけに重きを置いて作られるだけではない。

NYTが持ちかけた試みの一環として同世代の身近な人たちに彼らのパスワードにまつわる話を聞いた。日本の大学生の大半は覚えやすさと単純さを重視するようで生年月日、自宅の電話番号、名前などが多かった。しかし、その中で個性的なパスワード設定をする人もいた。

現在大学生のある女性は小学生の頃、家族と行ったアメリカ旅行の思い出をパスワードとして使用している。大自然という言葉がふさわしい、何とも非現実な場所だったと言う。車に乗っている時、バッファローが横を通り過ぎた。その記憶は今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。「やはりパスワードは忘れないことが肝心。あれほどの印象的な出来事はそうないので忘れないですよね」。

大学2年生の男性は中高時代の部活の背番号を並べてパスワードにしている。中学校の野球部での最後の背番号と高校のハンドボール部の背番号は特に大切だと語る。野球部では初めてもらった背番号からうまくなろうと地道に練習を重ね、最後には守備力が評価されて目指していた番号までたどり着いた。

ハンドボール部の背番号は一つ上の憧れだった先輩から受け継いだ。練習は苛酷だった。苦しくて辞めようと思ったこともある。しかし、同期や先輩がいたから続けられた。今でも当時の仲間とは定期的に会うと言う。パスワードの数字は彼の最も辛かった記憶と仲間、誇りが相まって彼の中に刻まれている。

パスワードは自分でつくるものと思いがちだが、家族に作ってもらったパスワードを大切にしている女性もいる。作ってもらったのは小学六年生のころ。大学生になった今もそのパスワードを使用している。便利で愛着があり、変えようと思ったことは一度も無い。

「複雑なパスワードっぽいパスワードができて嬉しかった」と彼女は振り返る。小学生のころはまわりにわからず、ずっと使えるようなパスワードを作れなかった。そこで父親がセキュリティのことも考えてパスワードを作成した。パスワードを家族に決めてもらったことに特別な思いはないと言うが、家族との関係は「いい距離感を保ちつつ、大切にされているというのはすごく感じる。いい家族」と話すようにとても良い。

長く愛着をもって使えているのは大切な家族が作ってくれたパスワードを変える理由がどこにもなかったからなのだろう。

セキュリティのためのパスワードでも、それは写真のようにその人の人生を刻み込むことができる貴重なツールの一つになる。たかがパスワード、されどパスワード。無機質な画面に打ち込まれていく数文字は驚くほど多くの記憶や思いで満ちているのかもしれない。

(慶應塾生新聞会 濱田真優)
(英字新聞学会三田キャムパス 佐藤萌)