【特集】Art&Museum

慶應義塾は国立科学博物館の「大学パートナーシップ」、今年4月には東京国立博物館の「キャンパスメンバーズ」に全学部が加入した。これによって塾生は、両館内の常設展を無料で観覧できるだけでなく、特別展や講演会、博物館学講座などの割引対象となっていいる。
しかし実際にどのように博物館を活用すればいいのか、悩む人も多いだろう。そこで今回は博物館だけでなく、美術展の展評をまじえながら博物館、美術館の活用を勧めていきたい。 (中澤元・藤浦理緒)

 

宮武東洋「マンザナー収容所」シリーズより 1942-1945年、ゼラチン・シルバー・プリント、50.8×60.8 cm 東京都写真美術館蔵
宮武東洋「マンザナー収容所」シリーズより
1942-1945年、ゼラチン・シルバー・プリント、50.8×60.8 cm
東京都写真美術館蔵

◆ゴー・ビトゥイーンズ展 森美術館
こどもを通して見る世界

「こども」を忘れない

六本木の森美術館で現在開催中の展覧会が『ゴー・ビトゥイーンズ展:こどもを通して見る世界』だ。このタイトルは、アメリカのフォトジャーナリストであるジェイコブ・A・リースが、英語をうまく話せない親の通訳となる移民の子どもを、「ゴー・ビトゥイーンズ(媒介者・つなぐ人)」と呼んだことに由来する。

テーマは副題にある通り、「子どもを通して社会を見ること」だ。文化に挟まれる子どもたち、大人への成長の狭間に生きる子どもたち、そして想像と現実を行き来する子どもたち。世界各国のアーティスト26組が、このようにさまざまな境界の狭間に置かれそこを行き来する子どもを、一つのメディアとして捉え、写真・映像で表現している。

言うまでもなく、私たちは多様な文化の中に生きている。そして、その多様性の中で悲しきレッテル・差別が生み出されてしまうことは、誰でもどこかで知ることだろう。しかし、知ってはいても、生まれたところや皮膚や目の色で大きく変化してしまう人生があることを肌で感じたことはあるだろうか。リースが「ゴー・ビトゥイーンズ」と表現した子どもたちは、まさにそんな人生を生きる移民の子どもたちだ。

数々の作品には子どもが、時として勇敢に、そして凛々しくある一方で、孤独に迷い悩む姿が写されている。宮武東洋の写真作品には、アメリカに住み日米開戦によって強制収容された日系人の子どもが写される。日本と米国という二国の狭間で翻弄される子どもたちは、悲しくも凛として佇んでいる。彼らが生まれてきたことに罪はない。しかし、抗うことが出来ない現実があることを悟る、そんな子どもの瞳に不思議と勇気をもらえる作品だ。

2001年、ビデオ、3分35秒(ループ) Courtesy:Tenya Bonakdar Gallery, New York テリーサ・ハバード/アレクサンダー・ビルヒラー《エイト》
2001年、ビデオ、3分35秒(ループ) Courtesy:Tenya Bonakdar Gallery, New York
テリーサ・ハバード/アレクサンダー・ビルヒラー《エイト》

また、8歳の少女と8という数字の永遠性を掛け合わせたテリーサ・ハバートとアレクサンダー・ビルヒラーによる映像作品《エイト》も上映されている。この作品は3分35秒の映像をループすることで永遠性を表現している。誰もが子ども時代に体験する孤独や寂しさは、忘れられずにその人の心に残っていくものだろう。しかし、まさにその孤独に直面する少女は立ち止まることなく、動き続ける。雨に打たれながらケーキを切る彼女は、いつか晴れるだろう時を待っているのかもしれない。

この展覧会は5章構成となっている。誰でも経験する子ども時代の体験をテーマにした作品から、個人特有の体験を基にした作品まで数多く並び、見応えは十分だ。展覧会の最後のスペースには、たくさんの絵本が置かれている。そして、子どもの高さに合わせた棚には、懐かしの、さらには最新の絵本が並べられている。大人になっていくうちに見えなくなってしまうもの、忘れてしまうことに目を向けるにはちょうど良い機会だろう。また、本展は世界各国からの来場者が見受けられ、そこにも多様性を感じる。

会期中は無休で今年の8月31日まで開かれている。夏休みに「大人」になりかけの私たちが「子ども」を振り返ってみるのも面白いだろう。
(中澤元)

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迫力ある標本が目をひく
迫力ある標本が目をひく

◆国立科学博物館

科学に対する正しい理解を

国立科学博物館(以下、科博)が大学パートナーシップを開始した背景には、そもそも現代の若者の「科学離れ」が問題視されている点がある。

2010年に内閣府が実施した『科学技術と社会に関する世論調査』によると、科学技術に関心のある成人は6割を超えている。しかし年齢別にみてみれば、20代における割合は一番低いという結果になった。20代というと、大学に在学する私たち学生が含まれる。

学生が科学技術に関する情報を受け取るのには「テレビ」、「インターネット」が主な手段になっている。それらに次いで「科学館・博物館」というのは4番に多い情報源という結果も出ている(『「国立科学博物館大学パートナーシップ」による学生入館情報と入館に対するアンケート調査』、科博実施、2012年)。この点で、「科学離れ」の改善に向け、情報を提供する場として博物館の意義が出てくる。そこで科博は、学生の科学リテラシーやサイエンスコミュニケーション能力の向上を目的としこの制度を開始した。

これによって、館内の観覧だけでなく学生を対象とする「サイエンスコミュニケーター養成実践講座」を割引で受講することが出来る。複数回にわたるこの講座では、若者のサイエンスコミュニケーション能力の向上を目指し「繋がる知の創造」を第一の目的としている。

科学技術に関する知識を正しく理解し、それをわかりやすく世間に伝えるというサイエンスコミュニケーションは、現代社会に必要となっている能力の一つだ。遺伝子組み換え作物といったように、科学における知識を正しく理解していないと自分自身の危険につながるものも今は多くある。専門家だけでなく、一般人もそういった正しい知識を知る必要があるからこそ、サイエンスコミュニケーターは求められている。

学習企画・調整課長であり筑波大学で客員教授も務める小川義和さんは、「サイエンスコミュニケーション能力をもつT字型の人材の輩出を重視している」と話す。T字型の人材というのは、一つの分野を専門とし深く研究するとともに幅広い分野に関して知識や経験をもつ人のことを指す。サイエンスコミュニケーションは、ただ伝えるだけでなく、このように自分の研究内容を見つけ、議論し解決していくことにもつながっていく。

幼い頃に一度、科博に訪れたことがあるという塾生もいるだろう。しかし、「大学生になってから、あるいは就職したり、結婚し子供を持ったり、退職をしたり、という人生の節目に改めて訪れてみると、違う印象を受けることがある」と小川さんは言う。展示室に1万4千点以上あるという恐竜などの標本をこの機会に見てみれば、また違った発見があるかもしれない。

幅広い時代の文化財が並ぶ
幅広い時代の文化財が並ぶ

◆東京国立博物館

文化財保護の精神を培う

東博には、国宝や重要文化財を含む文化財が多数所蔵されている。本館には主に日本の文化財、東洋館には中国をはじめとするアジアの文化財が展示されており、日本に留まらない文化に幅広く触れることが出来る。

上野公園には子供からお年寄りまで幅広い年齢層の人が訪れている。しかし東博に来館するのは高齢者が多く、若者が博物館に来る回数は少ない。文化財に触れる機会をまず提供することを目的とし、東博のキャンパスメンバーズは始まっている。

現在そのメンバーとして登録されているのは、関東圏内にある44校の大学、短期大学、専修学校だ。この44校の学生は総合文化展(常設展)を無料で、特別展を割引価格で観覧できるだけでなく、博物館講座を受講することもできる。

この講座への参加は各大学2名までに限定されており、将来学芸員を目指す学生を主な対象としたカリキュラムが設定されている。文化財の取り扱いの実習から博物館のマネジメントまで、その内容は多岐にわたり、昨年はおよそ30名の学生が参加した。美学・美術史科、史学科を専攻する学生が多く、それぞれ学芸員になるというモチベーションもさまざまだ。

学芸企画部博物館教育課で主任研究員を務めている神辺知加さんは、実際にこの講座を受けもつ研究員の一人だ。講座を通して意識しているのは、専門知識だけでなく、館内では静かにする、ボールペンなどインクの出るものは使わないといった学生の意識とマナーの向上だという。講座中はお客さんではなく、館の職員としての立場を味わえる貴重な機会であり、学生は文化財保護の精神を培うことが出来る。

一度壊してしまったら元に戻すことが出来ない文化財は私たちに何千年の伝統や歴史を伝える貴重なものだ。博物館教育課長の小林牧さんも「かけがえのない文化を次の世代に伝えるという心を多くの人にもってもらうこと。それが社会学習の場としての博物館の使命だと思っています」と話す。

平成館で現在開かれている特別展『台北 國立故宮博物院―神品至宝―』では台北國立故宮博物院の所蔵作品186点が展示されており、制度を利用し割引で観覧することが出来る。そして秋には、東洋文化を楽しむ『アジアフェス・inトーハク!』が開催される。仏像の前でヨガを体験するというイベントも行う予定だ。

東博に訪れたことがない塾生にとっても、このように馴染みやすいイベントが開かれている。キャンパスメンバーズを利用してこの機会に訪れてみるのも一つだろう。  (藤浦理緒)