11/2(日) 秩父宮ラグビー場 (東京都港区)
14:00 Kick off ○ 慶應義塾大学 24-19 明治大学

早稲田、関東大学対抗戦連勝記録「53」でストップ!

11/1。大学ラグビー界に衝撃が走った――。

大学ラグビー界の絶対王者、2000年11月23日の「早慶戦」で慶應義塾大学に負けて以来8年に渡って対抗戦の連勝街道を驀進(ばくしん)し続けてきた早稲田大学が、遂に敗れた(11/1、●7-18)。早稲田に土を付けたのは、2週間前慶應も大苦戦した(10/19、△5-5)あの帝京大学だった。

以下、SO川本祐輝(総4)の述懐。
「昨日の(早稲田と帝京の)試合ですか?丁度、試合の後半途中あたりで僕たちの全体練習が終わったんで、(宿舎に)帰ってテレビで見てた選手もいましたけど。僕はその後もキックの練習を続けてたんで、実際に見たのは試合終了5分前くらいからです。最初、18-7って聞かされた時にも、〈まぁ、早稲田が勝ってんだろう〉ぐらいに思ったんですけどね…」

SH花崎亮主将(総4)は「歴史が変わった」と表現した。「ブレイクダウンが持ち味の早稲田が、帝京相手にあれだけやられてしまうのか、と」(花崎)

「歴史」という言葉を持ち出すのは少々大げさな気もするが、現場の人間は一様に驚きを隠せないようだ。兎に角「山は動いた」のである。

「早稲田敗戦」の衝撃から一夜明けた11/2、前日早稲田大学が帝京大学に苦杯を舐めた秩父宮ラグビー場で、今度は慶應が重戦車軍団・明治大学を迎え撃つ。

伝統の「前へ」に加え、「縦横無尽」(※)という新機軸を打ち出し、FWとBKの密な連携を求める今季の明治大学であるが、直近の試合ではBKの機動力、横への展開を意識するあまり、本来持っていたFWの推進力、縦に突進する爆発的な力が影を潜め、現在は完全に負のスパイラルに突入してしまっている。

(※)明治大学ラグビー部公式HPに拠ると、縦横無尽とは「15人全員が一体となったオールラウンドラグビーをし、グラウンドを広く使うラグビーをして、どこからでもトライを取る」ことを指すようだ。そして今後もこの縦横無尽のスタイルの体得を目指し、新しい「前へ」を追求していく、と締めくくられている。

10月の対抗戦では、格下の筑波大学(10/12、●14-28)・日本体育大学(10/26、●10-16)に、まさかの連敗を喫した。もし、今回の試合で慶應に負けるようなことがあれば、今冬の大学選手権出場すら厳しくなる。最早、断崖絶壁からかかとが半分はみ出てしまっている状態、といっても過言ではないだろう。

ただ、相対的に見れば明治が「FW強者」であることには変わりなく、慶應は関東大学ジュニア選手権リーグ戦の明治大学戦(9/28、○32-29)同様、「エリアマネジメントの徹底」、極力自陣での攻防は避け、SO川本祐輝を中心にキックを多用し、相手陣内で勝負を仕掛けるイメージで今回の試合に臨むだろうと思っていたが、どうやら林監督の思惑は違ったようだ。

「ボールを遠くに動かそう、ウィングにボールを持たせて走らせようとした」(林雅人監督)

例えば、林監督の意向は、右ウィングの選択にも如実に表れている。
「相手の長所を消すか、自分たちの長所を押し出すかって考えた時に、今回は3:7の割合(で後者が優勢)だったんですよ。小川(優輔、環1)はキャッチングに優れ、キックゲームに強い。でも、『トライを取りに行く』となると、三木(貴史、経2)だったんですね」

今季のジュニア選手権リーグ戦、重心を低く保ち、深く沈みこんでからの鋭角的なステップで相手ディフェンス陣を翻弄、トライを量産するWTB三木貴史にこの試合賭けてみよう、と思い立ったのだ。

この日が対抗戦初出場となる三木貴史に加え、逆サイドには快速フィニッシャー・WTB出雲隆佑(総4)、前節の帝京大学戦(10/19、△5-5)で唯一のトライを決めたCTB竹本竜太郎(環2)、FBの和田拓(法2)、そしてその存在自体が戦術とも言えるCTB増田慶介(環2)と、慶應も前節に引き続きBKにはほぼベストに近いメンバーが揃った。

「明治のディフェンスは、内側に『切ってくる』選手に極端に弱いんです」(林監督)

とはいえ、増田慶介の破壊力抜群のラインブレイクは明治もある程度織り込み済みだろう。ただ、増田にばかり気を取られていると…。〈ハーフを介して素早く大外に展開、最後は快速の両ウィングが仕留めますよ〉という林監督の内なる声が聞こえてきそうだ。

慶應の「モーションラグビー」か、はたまた明治の「縦横無尽」か――。
試合後、白旗を上げるのはどちらの戦略だ?

増田骨折。慶應にいきなりのアクシデント発生

と、ここまでモーションラグビー(慶應) vs. 縦横無尽(明治)と、戦略対決の構図を(半ば強引に)作り上げたわけだが、結果から言うと慶應のCTB増田慶介が前半早々の接触プレーで右手甲を骨折し、前半12分にCTB仲宗根健太(総合1)と交代してしまったことで、この構図は脆くも崩れ去った。少なくとも、慶應はビッグゲインできる選手が早々と負傷退場したことで、「用意していたサインプレーが消えた」(林監督)。戦略の大幅な軌道修正を余儀なくされたのだ。

しかも、アタックの「3大基点」の内の二つ、スクラム・ラインアウトの不安定もあってか、三木貴史・出雲隆佑の両ウィングになかなかボールが回ってこない。こうなると、FW陣が近場のディフェンスで重戦車の圧力に耐え、SO川本祐輝やFB和田拓らのロングキックで陣地を挽回し、敵陣に進入したらじっくりボールを回しながら相手の反則を待ち、そして最後は川本祐輝のペナルティゴール(PG)で〆る、という「面白みには欠けるが、現実的な」戦い方が、慶應にとっては最善の選択となった。

前半20分に明治陣内でペナルティを獲得すると、SO川本祐輝は迷わずPGの3点を狙いにいった。キック成功。3-0。直後、明治にPGを返され3-3となるも、前半25分にはマイボールラインアウトの流れから、川本祐輝が明治ディフェンスの裏に絶妙なショートパント。これを、増田慶介に代わって入ったCTB仲宗根健太がしっかり掴んでトライ。直後のコンバージョンキックも川本祐輝がしっかり決め、10-3。この後、お互いに1つずつPGを決め、13-6。慶應7点のリードで前半を折り返す。

「慶應、つまんねぇぞ!」

後半6分、慶應はまたも明治陣内でペナルティを獲得。SO川本祐輝は、当然ながらPGを選択。

「慶應、つまんねぇぞ!」

明治を応援するファンにとっては、この日精妙なコントロールを見せていた慶應SOの左足が憎たらしくて仕方なかっただろう。

だが、「つまんない」というファンの野次は、川本祐輝にとって(勿論慶應にとっても)褒め言葉でしかなかった。

増田慶介がいなくなった、予定していた「ウィングにボールを持たせて走らせる」という作戦も上手く機能しない。ならば慶應得意の戦略、「エリアマネジメントの徹底」、キックを多用し敵陣で勝負を仕掛ければ良いだけのこと。冷静かつ慎重に、面白みには欠けても手堅く、確実に。選手たちも動揺することなく、直ぐにアジャスト出来た。

スタンドの野次も、虚しい響きとなって、秋空に消えていく――。

一方の明治であるが、こちらはこちらで「“明治はFW”という自分たちの拘りを見せたかった」(藤田剛・明治大学監督)との言葉通り、「縦横無尽」に固執し過ぎることなく、自分たちの強みを慶應に思いっきりぶつけてきた。

「FWは強かったですね。今日の戦い方はいかにも明治らしい、という感じでした」(FL伊藤隆大)「今日は明治もFWを全面に押し出すラグビーをしてきて、(明治は)やっぱりそれが強いなぁ、と思った。デカくて重くて、接点も強くて…。スクラムは本当重かったです(苦笑)」(LO村田毅)「(スクラムに関して)試合中組んでいくうちにだんだん修正できて、最後は(フロントローの)3人が一枚岩になって組むことができるようになったんですけど。プレッシャーが強かったですね」(PR柳澤秀彦)。慶應も明治がこれまでの戦い方から一転、FW戦に相当拘ってくると分かっていながら、特にスクラムでは後手に回った。接点の圧力が予想以上だったのだ。

だが、明治の選手たち自身が「迷い」を完全に払拭できていないのが実情。ラインアウトで慶應がミスを頻発していたことを考慮しても、明治が一層FW戦に拘っていれば、結果は違っていたかもしれない(あくまでも結果論であるが)。

例えば、慶應陣内でペナルティを獲得した際には、SO田村優がPGをせっせと狙うのではなく、トライが決まっても決まらなくても、慶應の選手たちの肉体・精神両面に多大なダメージを与えるスクラムからの押し込み、ラインアウト→モールなどの接点の攻防を繰り返せば良かったのではないか。

「田村君のキック(の精度)は予想の範囲。上手かった。でもね、やっぱりゴール前でスクラム、スクラムと選択された方が慶應にとって絶対に嫌ですよ」(林監督)

敵将は正直である。

After Recording 取材を終えて・・・


「増田がいれば、あと1、2トライは取れていたと思います…」(林雅人監督)

先述の通り、明治ディフェンスの盲点である「内に切れ込む」動きを得意とするCTB増田慶介の前半途中での離脱は、慶應にとっては完全に予想外の出来事であった(現在のところ、復帰のメドは立っていない。少なくとも、今季の対抗戦出場は限りなく不可能になった)。だが、選手たちはこの緊急事態にも動揺することなく、強靭なフィットネスに支えられた15人全員ラグビーをグラウンドの上で展開、見事「FW強者」の明治大学から勝利を収めた。これは、本当に大きい。

「接戦で勝てたのは大きな収穫」(SH花崎亮主将)

全員で守って、全員で攻める、15人全員ラグビー。これこそ、まさに「慶應ラグビー」の真髄だ。例えば今回トライを挙げたのも、CTB増田慶介に代わって前半途中から出場したCTB仲宗根健太と指揮官が期待を込めて送り出したWTB三木貴史の二人であった。これで、慶應側が盛り上がらない訳がない。FW・BK各々が役割を忠実に果たした結果の勝利だけに、高く評価できる。

「グラウンドを広く使うラグビーをして、どこからでもトライを取る」縦横無尽に、今回は付け入る隙を与えなかった。その戦い方には賛否両論あるだろうが、試合運びに関しては、慶應の方が一枚上手。試合巧者であったのは間違いない。

「PGが狙える、というのは敵陣にいるということなので」(FL伊藤隆大)
「敵陣にいれば、相手にトライを取られることはない」(SO川本祐輝)

このくらいの「割り切り」が、今の明治には必要ではないか。
明治も、11/4(火)から緊急に3泊4日の合宿に行い、トップリーグ・神戸製鋼の胸を借りるとのこと。
ここは「一明治ラグビーファン」としても、明治の奮起に期待したい。

〈はっきり言って、明治が弱いと大学ラグビーはちっとも面白くない!〉

さて、次節・立教大学戦(11/9、熊谷県営ラグビー場)を挟むと、慶應も遂に早稲田大学との「早慶戦」を迎える(11/23、秩父宮ラグビー場)。帝京大学との試合後「まだ、(早稲田には)届かないですね」と林監督は語っていたが、そのときの対戦相手・帝京大学が、早稲田に勝つというアップセットが起こった…。

本当に何が起こるか、分からない。
慶應にとって今回の「早稲田敗戦」は追い風なのか、それとも向かい風なのか。

いや、違う。相手どうこうではない。まずは「明治」という山の中腹を越えた。
自らを信じ切れるものだけが、最後山の頂に立つ――。それだけだ。

(2008年11月7日更新)

写真・文 安藤 貴文
取材 湯浅 寛 安藤 貴文