笑いの効用とその役割~「独立自笑」を目指せ

 私たちの身の回りにあふれている「笑い」。笑うと気分が晴れたり、友好関係が改善されたりしたことはないだろうか。今回はそのような「笑い」について、慶應義塾大学文学部教授宮坂敬造氏にお話を伺った。

 なぜ、人間は笑うのか。定石をはずす突飛な答え方をしたいとして、人間が危険な状況に好奇心をもって近づく動物だから、という答えがまず返ってきた。宗教的観念を発達させているような、文化情報処理型大脳を人間が持っているから、さらには、論理矛盾を含む言い回しが出来る「否定形をもつ言語」を使って謎々の遊びができるからという理由も挙げられた。

 では次に、私たちの日常生活で笑いが担ういくつかの効用についてみていきたい。まずは、人間関係において笑いがもたらす効用だ。人間関係は葛藤や利害の矛盾を含んで展開していくのが常態である。この中で、笑いは相互をリラックスさせて、お互いの心と心を通わせる「位相転換の経路」をつくる可能性を持つ。「笑いは相互に敵意はないことの儀礼的確認ともいえるスマイル笑いをはじめとし、ぎこちなく身がすくんだ緊張・警戒を解き放つ」ことができる。なぜならば、お互いが自分自身から距離をとり、とらわれている問題から離れて別次元にたって自他を眺める「認知転位作用」からこそ笑いが発生するからである。

 さらに、笑いが私たちの身体にもたらす効用についても見てみたい。結論から言うと、笑いは、心身のすくみを解き放つため、心身治療効果がある。医学的心身相関論からいえば、「気の好転」である笑いが、束の間にとはいえ、気がふさいだ患者の心の転換を通して、身体症状をも好転させるわけだ。実際、笑いが延命や治癒効果をもつということは、近年の臨床場面の経験からも、統計的に確認されている。

 そして最後に、宮坂氏に笑いについて学生に伝えたいことを聞くと、「現代の学生はこれから日本のグローバル=ローカルな文化動態を変えていく世代です。社会や世界のシステムが複雑化していくと、その窮屈さを脱臼させるべく新しい笑いの文化が進化する必要があると思います。小さな笑いでなく、深い笑いへと。

 それには、自分のもつ笑いのパターンが限られたものであることを狭い自分の殻を離れて自覚し、独立自尊ならぬ「独立自笑」の態度をものにし、そこから批判精神に富む新しい笑いを創造していってほしいと期待します。漫画アニメでの笑いの多文化化・多様化など、できること、挑戦すべきことは多々ある感じがします」と答えてくれた。

 笑いとは、私たちの生活に欠かせないものといえる。笑いがあるからこそ、私たちは人生を豊かにすることが出来るのである。普段良く笑う人もあまり笑わない人も、このような素晴らしい効用を持った笑いを、これからも大事にしていってほしい。 
  
(北澤栄章)