世界初、実用化に期待
理工学部の桂誠一郎准教授は、温熱感覚の同時・双方向制御による遠隔通信の開発に世界で初めて成功した。この開発は、先月1日より千葉市で開催された「CEATEC JAPAN2013」での出展で審査員特別賞を受賞するなど、注目度が高い。触覚情報の伝送により従来のマルチメディアの充実化を図るのが狙いで、実用化されれば医療などへの応用が可能となる。  (斉藤航)

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慶大は9月30日、理工学部システムデザイン工学科の桂誠一郎准教授が、温熱感覚を遠隔地間で共有する高精度なシステムの開発に、世界で初めて成功したことを発表した。同開発は桂准教授と理工学研究科後期博士課程3年森光英貴さんとの共同による成果。総務省の戦略的情報通信研究開発推進事業の一環として行われた。国から委託されたプロジェクトとして3年程前に着手し、開発に至った。

今回の成果は、先月1日から5日にかけて幕張メッセ(千葉市美浜区)で開催された、「CEATEC JAPAN2013」において出展・発表され、審査員特別賞を受賞した。これは総務省・外務省・経産省の各省などが後援するアジア最大級の規模を誇る先端IT・エレクトロニクスの国際的な総合展示会で、毎年500を超える団体が出展する。その中で、技術の革新性・技術の応用への期待可能性が高く評価された形だ。

温熱感覚の伝達には、エネルギーの流れである「熱流」と、その動きに伴って変化する「温度」の2つの要素が関係する。この技術の特徴として、2つの要素を同時かつ双方向的に制御可能にしていることがあげられる。このような高精度の温熱感覚通信を実現させたのは世界初の快挙となる。

従来のマルチメディアはインターネットやテレビに代表されるように、主に音声や映像情報を通信する。これらの情報は人間の感覚のうちの聴覚や視覚にあたるものであった。新しい技術を用いると、触覚情報である「温もり」を通信することが可能になる。

現在幅広く利用されるテレビ・電話をはじめとした遠隔通信は日々進歩している。遠隔通信が伝える情報に「温もり」という触覚情報が加わることで、その臨場感を飛躍的に向上させることが期待される。例えば、祖父母が遠隔地に住む孫を抱いている感覚を「温もり」とともに通信することなどが想定される。
桂准教授は、「人の温もりは人と人とのコミュニケーションにおいて、重要な役割を果たす。人の体温を通信することで、より豊かなコミュニケーションが実現する」と話す。

現代の情報通信技術は音と光の情報しか伝わらない。そのため、コミュニケーションで情報の乏しさが目立つ場面も多々ある。今回の開発では現代メディアの在り方を変革することも重要な目標に掲げられた。

また医療への応用可能性もある。遠隔地においての触診が可能になり、患部が熱をもつ病気の発見の早期化が期待される。治療の迅速化は医療の課題の一つだ。桂研究室では、メーカなどとの提携も含め、今後も技術の実用化に向けてさらに研究を進めていく予定。