「終わり」のない研究の成果

平成5年に開設された慶大アートセンター。「人がある思想や感情に従い、それらを形に残す。その形に残ったものこそが美術です」と所長の内藤正人氏は語る。アートセンターは美術・音楽・舞踏・演劇・映画を扱い、特に近現代美術を主な対象としている。これらを研究・調査・保管し、さらには多くの人が閲覧できる場所だ。

アート・アーカイヴと呼ばれる、特定の芸術家に関する資料等の保管が慶大アートセンターの最大の活動だ。日本においてアート・アーカイヴを行っているのは慶大アートセンターだけ。不特定多数の閲覧者を対象とするミュージアムや、一時的に書物を保管し閲覧を可能とするライブラリーとは違い、ある特定の芸術家に関する資料を集め研究し、「その人が生きた証」を保存して公開する活動のことをいう。
例えば、現在慶大アートセンターで稼働している「西脇順三郎アーカイヴ」。西脇氏が亡くなった後寄贈された、弟子がかつて西脇氏から受け取った原稿や素描をアートセンターが整理・保存し、その資料がどういう意味を持つのか、いつできたのかなどを研究し、一般に公開する。新たな資料の発見などもあるので、研究は一回きりで終わらない。アーカイヴの資料を研究し続けて、再び公開するということの継続だ。
アート・アーカイヴは予約さえすれば、研究者だけでなく、学生や一般の方も見ることができる。日本文化に興味を持ち、海外からわざわざ訪れる外国人もいるそうだ。
アートセンターはこうした学術的活動を主とする一方で、三田キャンパス南別館1階にあるアート・スペースのように慶大内で唯一の常設展示スペースも設置している。塾生はもちろん、地域住民や通りがかった人まで、気軽に訪れ、美術と触れ合うことができる。「誰でも何も身構えることなく、何かを見て、何かを感じて、帰っていく。予習もいらない気楽に覗ける場。アート・スペースはそのために作られた」と内藤氏は言う。
アートセンターの活動は、塾内に限らない多数の人々を対象とすることが基本だ。アートセンターの目指すところは学校教育ではなく、社会教育。研究にを始めとして、イベントなどを通して学校と社会とを結ぶ役割を担っている。こうしたアートセンターの活動によって、将来アートと社会がより密接に関係していくだろう。
(柳井あおい)