慶應義塾大学医学部小児科研究グループは、新生児の100人に1人に発生している先天性心疾患の新たな原因遺伝子を世界で初めて発見した。この研究結果は、国際的な科学誌「米国科学アカデミー紀要」で公表されている。
小児科研究グループの山岸敬幸講師と古道一樹大学院生らは、東京女子医科大学国際統合医科学インスティテュート(IREIMS)の松岡瑠美子教授らとの共同研究により、転写因子GATA6の遺伝子変異が重症心疾患のひとつである総動脈幹症の原因となることを発見。さらにその疾患発症分子機構を解明した。
先天性心疾患は新生児の約1%に発生する最も頻度の高い先天異常の1つであり、新生児・乳幼児死亡の主要な原因となっている。総動脈幹症は、大動脈と肺動脈の2本の血管が1本の総動脈幹として発生してしまう先天性心疾患で、肺に過剰な血液が流れ、また全身に十分な酸素が送られなくなる。一部の染色体異常による症例以外では、どの単一の遺伝子が総動脈幹症の原因となるのかはこれまで明らかにされていなかった。
そこで研究グループは、過去の動物実験から得られた情報をもとに、先天性心疾患の原因となる新規疾患遺伝子の調査を開始。網羅的な遺伝子変異解析により、複数の総動脈幹症の症例で転写因子GATA6をコードとする遺伝子に変異が検出された。
GATA6遺伝子は、マウスを用いた動物実験により心臓発生の過程で発現・機能しており、またGATA6遺伝子変異マウスでは総動脈幹症に類似した先天性心疾患が発症している。
今回の発見は先天性心疾患の分子・細胞レベルでの再生医療を発展させるための足掛かりとして期待されている。