哲学に対して、あなたはどのような心象を抱くだろうか。小難しいもの、自分には関係のないもの、学者たちによる内輪なもの……。このようなイメージが得てして多いであろう。

そんなアカデミック色の強い哲学を、一般の人にも分かりやすく案内する「哲学ナビゲーター」という日本で唯一無二の存在がいる。作家・哲学ナビゲーターとして活躍中の原田まりるさんだ。

原田さんによると、哲学は面白く魅力的なコンテンツであるものの、哲学そのものに対する認知を共有している人は少ないという。哲学に対する一般認知を増やす一歩として、彼女は哲学者の思想をわかりやすく紹介している。その一つが、昨年発刊した『まいにち哲学』という著作だ。一年間3‌6‌6日分の哲学者の言葉を収録している。

「傷ついたときに、音楽を聴いてその歌詞に励まされるように、多くの人にとって『哲学』がそのような手段の一つになればいい」。いわば哲学のファストフード化を目指しているのである。

彼女が哲学に興味を持ったきっかけは、高校時代、尾崎豊さんのファンだったことだと言う。彼は「自由とは何か」「生きるとは何か」ということをトピックとして取り上げ、魂を込めて歌った。そんな彼の詞に共感を覚えたのだと話す。

彼が問うたものの答えを見つけるには何を学べばよいのか。当時の彼女は疑問を覚えた。そんな時に出会ったのが、哲学者・中島義道さんの著作だったそうだ。「尾崎の歌詞を含め、自分が興味のある内省的な問題の答えは、哲学を勉強すれば分かるのかも」。こう考えた彼女は哲学を学び始めた。

大学の授業などにおいて哲学を学ぶ際、どのようなモチベーションで臨むのがよいのだろうか。原田さんによれば、最初は一度従順になることが重要だと言う。「授業で学んでそれ自体に意味を感じなかったとしても、それはまだ第一段階です。自分の糧の一つにする程度の気持ちで十分だと思います」

先述の『まいにち哲学』では月ごとにテーマとなる言葉が掲げられており、6月は「憂鬱」となっている。4月はやる気があったにもかかわらず、5月が過ぎて、段々と怠けていくことの多い大学生にも重なる。

彼女に好きな言葉を聞いてみると、6月6日のショーペンハウアーの言葉を挙げてくれた。「陰気な人間は十の計画のうち九までが成功しても、この九を喜ばずに、一の失敗に腹を立てる」。つまり逆を言えば、陽気な人間は一の成功の可能性でも自分のモチベーションを高めることができるということだ。

雨が多く陰気にもなりがちなこの季節、原田さんは「日常とはまた違った気分に浸れ、発見が多い良い時間だと思う」と語る。こんな時期だからこそ、哲学を学んで一つの可能性を見出せるように努めるのも良いかもしれない。原田さんが哲学に興味を持った端緒のように、自らの糧はどこに潜んでいるのか分からないのだから——。

(曽根智貴)