日本の大学生の勉強時間が足りないとして、文部科学省(文科省)は大学入学時と卒業時にテストを実施することを検討している。アメリカの大学と日本の大学との比較研究をしている松浦良充教授に大学生に求められる学習について伺った。

日本の大学設置基準では、大学における単位取得には授業内の勉強時間と、その倍の授業外の勉強時間が要求される。そこから想定される大学生の勉強時間(授業、授業関連の学習、卒業論文にかかる時間を想定)は1日8時間。しかし実際は、平均1日4・6時間と大幅に下回っている。対して、アメリカの大学生は、日本の大学生の勉強時間の倍以上勉強している。

日本の大学制度を振り返ると、戦前はドイツの大学制度に倣っていたが、戦後アメリカの影響を強く受け、大学制度もアメリカをモデルとして変革された。ドイツの大学制度は研究や専門教育に重点を置き、3年制。アメリカの大学は、4年制で一般教養を大事にし、プログラム化した授業を計画的に行う。

戦後にもドイツの影響が残ったため、アメリカの大学制度との矛盾が生じ、日本の大学制度は中途半端になった。しかし、今から20年ほど前に大きな改革が始まり、アメリカ的な大学制度を徹底することになった。大学教員の意識にはドイツの制度の名残があるが、現在の日本の大学制度はアメリカの大学制度とあまり変わらない。

制度的にはアメリカと大差ないにも関わらず、大学生の勉強時間には大きな差が出る。そこには、大学と職業のつながりに理由がある。

アメリカにおける大学(学士課程)と職業の関係は比較的薄い。大学生の意識は日本と同じく就職に貪欲だが、アメリカの大学生は大学院で専門的なことを学び、良質な職に就こうと考える。大学院への進学を望むため、大量の勉強時間が必要になるのだ。また、アメリカの企業は、採用ポストを明確にし、専門的な能力を求めるため、大学院での学びが重要となる。

日本では、大学での学習が職業に直接結びつきにくい。例えば、全く異なる学部を卒業しても同じ職業に就くこともある。また、日本の企業は総合力のある人材を求めるため、大学での専門的な内容が職業に直接つながらない。そのため、日本の大学生は、大学での学習ではなく、就職のために力を入れる。

松浦教授は文科省が検討するテストによって勉強時間の改善は期待できないだろうと語る。「慶大生をはじめとして日本の大学生は、与えられた問題を解くことは得意だが、自分で問題を立てることが苦手。そのため、授業外での学習や経験で視野を広げることが大切になる。学内外でさまざまな刺激を受け、自らの世界を広げてほしい」と話す。

アメリカの大学のような、大量の課題による強制的な学習を日本に取り入れることは正しいのだろうか。日本の大学生である塾生として、求められる学習について考えてみたらどうだろう。

(井上絵梨)