慶應塾生新聞会 三田オフィス

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つれづれ評論 国立西洋美術館 「レンブラント 光の探求 闇の誘惑」

「光と影の魔術師」と呼ばれる画家をご存じだろうか。彼の名はレンブラント・ファン・レイン。オランダが生んだ天才画家の作品が、上野・国立西洋美術館にやってきた。
 レンブラントは17世紀オランダ、バロック期の画家である。彼の代表作、通称『夜警』は世界史の授業などで見た人も多いのではないのだろうか。
レンブラントの作品の魅力は、なんと言ってもその陰影の美しさにある。斜めから射す一筋の光は対象を立体的に、そして劇的に照らし出す。この光の当て方はレンブラントが好んで用いたことから、レンブラント・ライトと呼ばれ、映画等で使われる照明法として知られている。若干不自然なほど強調された光は陰影を際立たせ、光の当たる場所は質感まで伝わってくる。
 一般的には油彩作品で知られるレンブラントだが、今回の特別展『レンブラント 光の探求 闇の誘惑』は、銅版画作品を中心としていることが特徴だ。
 版画の白黒2色の世界は、彼の表現する光と闇の明暗法を強調する。版画作品は色調がなく油彩に比べて単純な分、画家の底力が試される。だが彼の作品を見ると、その繊細な仕事に圧倒される。
 例えば彼の版画作品の中でも傑作として名高い『3本の木』。前方の3本の木と丘は穏やかに在るが、後ろの空は濃淡のある雲や黒雲が斜線や繊細な彫りでダイナミックに描かれ、嵐の到来を予感させる。
 本特別展では、3つのテーマが据えられている。「黒い版画」、「淡い色の紙(和紙)」、「レンブラントのキアロスクーロ(明暗法)」。詳しい説明はそちらに譲るとして、今回はレンブラントと和紙の関係について焦点を当てて紹介したい。
 版画は紙に刷るものであり、紙が作品に与える影響というものは意外と大きい。下地としての色はもちろん、刷れる回数や刷りやすさ、耐久度などさまざまな要素に関係する。
 レンブラントが版画に多用した「ドライポイント」という彫刻法は印刷時に摩耗しやすいため、なるべくインクの吸収性がよく、かつ版画に適した紙が必要となった。羊皮紙はその条件に合致していたが、値段の高さが難点となった。
 そこで着目したものが、当時日蘭貿易で日本から輸入された和紙(雁皮紙)や中国紙(中国という名だが、実際は和紙)である。彼はその吸湿性と淡い地の色合い、発色性なども気に入ったようで、後年の多くの作品を和紙に印刷している。
 また、この特別展でもう一つ注目してほしいものが、ステート(版)の違いだ。
 レンブラントは一度完成した版画に若干手を加え、別の版画にすることがあった。それが非常に分かりやすいのが、『民衆晒されるキリスト(エッケ・ホモ)』。新約聖書の時代、捕えられたキリストが民衆の前に晒される場面を描いたものだ。そのなかで、初期のステートでは存在した民衆が、後期のステートでは一部が消えている。
 このように構図的なステートの変遷以外に、色の濃淡や影のつけ方などで手を加えられているものが多いことも、鑑賞する上でポイントになるだろう。
 最後に彼の油彩作品も1つ紹介したいと思う。序盤に飾られる『アトリエの画家』。左奥に画家が立ち、右手前に置かれたキャンバスをじっと眺める。画家がキャンバスの前で絵の構想を練るというモチーフは当時オランダでもよく用いられたものである。しかし、この絵の中心は画家でもキャンバスでもなく、光と空間だ。
 画家は影に埋もれ、画家とキャンバスとの間には光に満ちた絶妙な空間が存在する。光に照らされ手前に影を落とすキャンバスは、その境界に強い光を宿す。構図や物体は非常にリアルだが、光と影は若干不自然に描かれ、だからこそ劇的な効果が生み出されている。
 繊細かつ美しい彼の作品が多数並ぶ特別展。ぜひ足を運び、光と影の「魔術」に触れてみてほしい。     (大竹純平)