「臥遊(がゆう)―時空をかける禅のまなざし」展が10月2日から12月1日まで、慶應義塾ミュージアム・コモンズで開催される。本展覧会では、1943年に実業家・菅原通濟によって母体が築かれた常盤山文庫コレクションと慶大所蔵作品が併せて公開され、室町時代の墨蹟や山水画、道釈人物画、花卉画といった多様な禅宗美術を鑑賞できる。雪舟や一休の初展示品もあり注目度の高い展覧会だ。

今回は、学芸員として現場で展示準備をしている松谷芙美さんに話を聞いた。話を聞く中で、見どころだけでなく、展覧会を作り上げる苦労や工夫が見えてきた。

 

展覧会の「仕掛け」

「禅宗美術はハードルが高いと思われている」と話す松谷さん。専門知識がなくとも、誰もがふらっと訪れられるような展覧会にするために、とある「仕掛け」があるという。

その仕掛けとは、「あえて説明をしない」ということだ。画の前に解説があると、それを読むことに集中してしまい想像力をかき立てる機会は少なくなる。展覧会名となっている臥遊とは、「横たわりながら画の世界に想いを馳せ、心を遊ばせる」という意味である。輪郭を超えて無限の景色が広がっていく禅宗水墨画。その筆致に想像力を働かせ、画の世界に自意識を没入させるという「体験」をしてほしい。

紙の質や作品の大きさ、経年劣化や質感。それらは、ネットや本で画像を眺めるだけでは決して分からない。実際に画の前に立ってみて、どこにグッと来るか、目を奪われるか。個々の作品との出会いの場として展覧会は作り上げられていた。

また、ぜひ2周目を楽しんでほしいと熱弁する。1周目で心惹かれる作品を見つけたら、2周目でその作品の場所に戻り、ガイド解説の知識と照らしあわせて鑑賞する。そうすることで、感性と学術の両面でより深く作品を楽しめるのだ。訪れた方はぜひ、戻ることを躊躇わずに何度も行き来しながら作品を深く味わって欲しい。

 

雪舟を鑑賞する

ここで展示品を1つ紹介したい。雪舟筆「山水図」である。〈写真①〉雪舟派の重視した技法の中に、潑墨(はつぼく)といわれる勢いよく大胆に墨をそそぐものがある。雪舟筆山水図はその代表例だ。面的に用いられる墨の濃淡と、その上に描き足される線的に記号化された家や橋のみで山水景観を立ち上がらせており、風景の中にある抽象性や偶然性までも捉えている。大胆な潑墨を好んだのは雪舟晩年の時期であり、老練の域に達した雪舟の画技に圧倒されてしまう。

今回の展覧会では、アニメーションを用いて雪舟がこの画をどう描いたかを公開している。この世界がどう立ち上がっていったのか、まさに「時空をかけ」て見ることができる機会となっている。

さらに、連携企画として東京国立博物館では10月22日まで「常盤山文庫の名宝」展が行われている。そこでは禅僧の墨跡をはじめ、中国陶磁や絵画など常盤山文庫所蔵の名品を展示。2つの展覧会を併せて観ることで、より深く禅の美術文化を知ることが出来るようになっている。

また、常盤山文庫の寄託を受けている九州国立博物館・東京国立博物館の学芸員の方をお呼びしてシンポジウムを開催する予定もある。常盤山文庫に興味がある方はもちろん、美術館の裏側に関心がある方は訪れてみてはどうだろうか。

10月23日、11月24日の14時から14時30分にはギャラリートークが行われる。予約制ではあるものの、塾生であれば予約無しでもぜひ参加していただきたいとのことだった。塾生は空きコマなど活用して気軽に聞きに行ってみてはいかがだろうか。KeMCoは慶大三田キャンパス東門を出てすぐ左手にある。三田生は授業のついでに、日吉生は三田散策のついでに、時空をこえた臥遊の旅に出かけてみよう。

 

雪舟筆「山水画」(写真=提供)

(森岡良太)