望月衣塑子(もちづき・いそこ)記者は、法学部政治学科を卒業後、中日新聞社に入社。伊藤詩織氏の性被害問題や森友・加計学園問題の取材などで知られる。東京新聞社会部遊軍として多岐に渡るテーマを取材してきた望月記者に、熱意の源泉や今の日本メディアが抱える課題を聞いた。

【中日新聞東京本社にて話を聞いた】

 

無視できない声を報道

「自分がマジョリティー側にいると思ったことがない」という筑紫哲也氏(ジャーナリスト)の言葉を、心構えとして引用した。社会的立場が弱い人、声を上げられない人に「光を当てる」には、記者が彼らの声を大きく伝えなければならない。社会を変えるためには、記者がマジョリティ―の立場にいてはいけないという意識は常にあると話す。

出産後、子どもや社会生活に強く影響を与える政治問題に関心が向くようになった。社会部記者でありながらも、官房長官の記者会見にも足を運んでいる。

今年6月に強行採決された改正入管法の報道にも力を入れている。LGBT理解増進法にも言及し、「多数派に押しつぶされるというのが、入管法に似ていると思う」と指摘。一つの問題を取材するうちに、他の問題も目に入ってくる。「起きていることをひたすら追っかけてる感じ。当事者の声を聞けば聞くほど、無視できないことが次々と広がる」と語った。

新聞に限らず、さまざまな媒体から情報を届けている。新聞紙面では数十行しか書けなくても、YouTubeだと深掘りできる。個人でTikTokにも動画を投稿しており、入管問題の動画はよく見られたそうだ。「みんながひどいと思うものって、新聞じゃなくても見てくれるんだ」と手応えを露わにした。あくまでもベースは新聞に置きつつ、映画や著書などでも真実を伝えている。

 

生の言葉を引き出す

菅義偉官房長官の記者会見で知られる望月記者。「権力を監視することのがメディアの立ち位置」と語る。記者会見での記者による質問は、事前に質問内容を通告することが暗黙の了解となっていた。その中で、望月記者は質問を繰り返した。その理由を、「生の言葉を引き出す」ことが現場で取材する記者の仕事だからだと話した。

「希望持ってもらう」ことも記者の役割であるという。たとえ問題のある法律が可決したとしても、命懸けで取り組んでいる人は数多くいる。その姿を伝えることで、「この世界も捨てたもんじゃない」と前向きになれるような報道をしたいと語る。政治家と市民の「架け橋」になれるような記者になりたいと意気込んだ。

 

【望月衣塑子(もちづき・いそこ)記者】

東京新聞社会部所属。武器輸出や森友・加計学園問題などを取材。『武器輸出と日本企業』、『報道現場』など著書多数。映画『新聞記者』(日本アカデミー賞作品賞受賞)は、著書『新聞記者』が原案。

 

(山下和奏)