私は、昨年9月に、2週間かけて1人で北欧4カ国を巡った。具体的には、日本から飛行機でフィンランドに向かい、スウェーデン、ノルウェー、デンマークの順番で移動した後、デンマークからフィンランドで乗り継いで日本に帰る、という行程だった。北欧は、決して行きやすい距離ではないため、日本においてはメジャーな旅行先ではない。現在、ロシアによるウクライナ侵攻の影響でロシア上空を飛行することができないため、なおさらである。しかし、私は「世界の幸福度ランキング」で毎年上位を占め、社会福祉の充実度や治安の良さで知られる北欧の国々に昔から強い憧れを抱いていたために、初めて1人で海外を旅することへの抵抗も一切なく、大きなスーツケースを引きずりながら14日間の旅を満喫した。今回は、日照時間の長い夏の北欧を巡って感じた魅力を、写真を交えながら紹介していこうと思う。

クリスチャン5世が建設したニューハウン。カラフルな建物が軒を連ねる (デンマーク)
ライ麦パンに様々な食材をのせた伝統料理、スモーブロー(デンマーク)

豊かな自然を感じる観光地

北欧の国々は、中心部から少し郊外に出るとすぐに豊かな自然が広がっている。また、人口密度が低く、トラムや電気スクーターが住民の足として普及しているためか空気がとても澄んでいた。私が北欧を訪れた9月は、まだ夏で日照時間が長いものの、日本でいう10〜11月の気温で薄手のコートを着ないと肌寒いくらいだった。
今回の旅では、主に都市部の有名な観光地を回ったが、その中でも私が特に気に入ったのは、フィンランドのスオメンリンナ島だ。この島は、フィンランドの中心部から近いものの、豊かな自然を感じられる観光地で、世界文化遺産に登録されている。18世紀建造の要塞島で、海に浮かぶ自然豊かな島であると同時に、さまざまなアートが生まれる島という三つの側面を持つ。中央駅から程近い、マーケットエリアのフェリー乗り場から15分ほどで到着することができ、数少ない住民の憩いの場である真っ白な教会、軍服や大砲を展示した博物館、石で作られた砲台などで有名だ。私は、人がいない静けさの中で海風を感じながら海岸線に沿って歩いた時、人の心を穏やかにするこの島の自然の素晴らしさをしみじみと感じた。また、適度に舗装された土の道を歩くと、ちらほらと可愛らしい色で塗られた扉を持つ小屋が建っている。これらは、ガラス細工や織物、絵画などを扱う工房兼ショップであり、どの店に入っても、店主が気さくに話しかけてくれるため会話が弾んだ。さらに、海を見晴らす断崖の上で景色を楽しんでいると、日本人のとある写真家に出会った。彼は、私を彼が滞在するアトリエ兼アパートに招待してくれた。彼は、スオメンリンナには、HIAP (ヘルシンキ・インターナショナル・アーティスト・プログラム)の応募選考を通過した、様々なフィールドで活躍する世界中のアーティストが滞在していることや、ウクライナから避難したアーティストたちにも創造と生活の場が提供されていることを教えてくれた。

陽の光が水面に反射してキラキラと輝く(スオメンリンナ島、フィンランド)
扉を開けると、買い取った古着を美しい服に生まれ変わらせる工程を見せてもらえる(スオメンリンナ島、フィンランド)

北欧の食べ物

北欧では、豊かな海から取れるシーフードや、北欧での日常生活になくてはならないコーヒー、様々なベリーを使ったスイーツやトナカイの肉を楽しむことができる。
しかし、いかんせん北欧は日本と比べて物価が高い上に、当時は記録的な円安状態にあったため、レストランに入ってコース料理を堪能、というわけにはいかなかった。そこで、私はあまりお金をかけずに北欧の食を楽しむ工夫をした。
工夫の一つは、地元民が利用するマーケットを訪れることである。マーケットには量り売りされている野菜やシーフード、フルーツの他に、パンやサンドイッチも売られており、歩いているだけでも楽しい空間だった。紙皿に乗ったワンプレート料理を提供している店もあり、レストランで食べるより安く、出来立ての料理をいただけた。野菜を売る屋台の店主のおじさんは日本を訪れたことがあるそうで、私を見ると、にこやかに「こんにちは!」と声をかけてくれた。また、レストランではなく、カフェに入るという手段もある。塩キャラメルのような味のブラウンチーズがのったノルウェーワッフルや、ベリーがのったデンマークチーズケーキは、コーヒーと一緒に食べると絶品で、「フィーカ」と呼ばれるコーヒータイムを北欧の人々が大切にする理由がわかった。

マーケットスクエア。パンやサンドイッチが並び、食事のできるスペースも用意されている(フィンランド)
ノルウェーワッフルとコーヒー。上にのっているブラウンチーズは塩キャラメルに近い味(ノルウェー)
鉄板で焼かれた野菜とトナカイのミートボール。ベリーのジャムが添えられている(フィンランド)

北欧の文化と歴史

日本で、北欧と聞いて思い浮かべるものはなんだろうか。「IKEA(イケア)」のシンブルな家具、「Marimekko(マリメッコ)」や「Flying Tiger Copenhagen(フライング タイガー コペンハーゲン)」の可愛らしいデザインの雑貨を思い浮かべる人も多いだろう。そのイメージに違わず、北欧では建物から雑貨に至るまで、視覚的な美しさと実用性を兼ね備えた作りになっているものが多い。歴史の残る重厚な建物と、現代的建築の前衛的な建物が溶け合い、色合いが計算された多様な植物が美しく配された街並みは、歩いているだけで幸せになれる。また、ヘルシンキの「アカデミア書店」やストックホルムの「ストックホルム市立図書館」では、「北欧の賢人」と称えられたアルヴァ・アアルトや、モダン建築の巨匠であるエリック・アスプルンドのデザインを気軽に楽しむことができる。

エスプラナーディ公園に面したアカデミア書店。開放感のある吹き抜けと天窓のデザインが特徴的(フィンランド)
ストックホルム市立図書館。360度本に囲まれる圧巻のパノラマを楽しむことができ、書架は「知識の壁」と呼ばれる(スウェーデン)

北欧の歴史的な街並みを楽しめるエリアとしては、ガムラ・スタンがおすすめだ。スウェーデンのストックホルムに位置する旧市街で、中世の街並みが広がっている。ここは、映画「魔女の宅急便」の舞台であるコリコのモデルになった街であり、歩いていると今にもキキが箒に乗って現れるのではないかという感覚に襲われる。海に囲まれたこのエリアは、細い路地が縦横に走っており、ネオゴシック様式の教会や、スウェーデン王室の戴冠式が行われる大聖堂、そして煌びやかな王宮が観光スポットとして有名である。石畳の道は日が暮れると情緒たっぷりで、カフェやバーから漏れ出る光は、昼とはまた違ったガムラ・スタンの一面を見せてくれる。

ガムラ・スタンの小路。最も狭いことで有名な道は幅が90cm(スウェーデン)
装飾や調度品が豪華絢爛なストックホルム宮殿。現在も国王などの執務室として使われている(スウェーデン)

北欧のあたたかさに触れて

日本人は「見ず知らずの人に対する、人助けやおもてなしの心が豊かだ」と言われるが、北欧に滞在していた2週間の間、私は鉄道のチケットを買う時、カフェでコーヒーを頼む時、サウナを楽しんでいる時に、数えきれないほど地元の人々に温かく接してもらい、様々な出会いがあった。また、ほとんど遅れることのない公共交通機関や、子供や女性に優しい社会にも、日本と近しいものを感じた。同時に、クレジット決済の普及や、PC、3Dプリンター、録音マスタリングスタジオ、大型プリンターなどが誰でも自由に使える図書館、自然や歴史を尊重しながら現代化された街並みは、日本よりも優れた部分として、私の目に映った。

北欧で過ごした2週間は、すべての瞬間が最高に幸せな時間で、日本に帰国する日にはすっかりこの土地に愛着が湧いていた。この記事を読んで、少しでも北欧に興味を持ち、行ってみたいと思ってもらえたら嬉しい。

クリスチャンボー城から見たコペンハーゲンの街並み(デンマーク)
夕陽に照らされるグスタフ・ヴァーサ教会。北欧の夏は21時頃に日没する(スウェーデン)

(鈴木倫子)