小学生では4.9%、中学生では3.2%。令和4年度全国学力・学習状況調査において新聞を「ほぼ毎日読んでいる」と回答した割合である。近年、若い世代の新聞離れが進み、新聞の発行部数は全国的に減少している。

情報社会が加速していく中で、新聞はどのような役割を担っていくのか。新聞の歴史と未来を伝える博物館「ニュースパーク」の館長である尾高泉氏に話を聞いた。

新聞の魅力を伝えるニュースパーク

ニュースパークは、新聞文化の継承と発展を目指し、2000年に横浜に開館した。横浜は、明治3年に日本初の日刊新聞が誕生した地であり、新聞の歴史において重要な都市だ。
館内では、かつて新聞作成に使用された輪転印刷機や戦時中に発行された新聞などの、貴重な展示物を見ることができる。近年の急速な情報量の増大を示す展示もあり、歴史と現代の両面から新聞を見ることができる。

情報量の変化を時系列で表した展示。現代の急激な情報量の増加が見てとれる。
輪転印刷機の展示。現代と当時の印刷技術の差を感じることができる。

新聞を若い世代へ

慶應義塾はニュースパークの特別会員になっており、塾生は無料でニュースパークに入館できる。ニュースパークが主催するイベントへのオンライン参加も無料だ。コロナ禍以降、対面とオンラインのハイブリッド形式で行われているイベントには、多くの慶大生が参加しているという。
ニュースパークは小中学生への教育連携も重視している。小中学生の新聞離れが急速に進む現代。新聞が歩んできた歴史を伝える展示を通し、「若い世代にこそ現代における新聞の意義について考えてもらいたい」と尾高氏は語る。
多くの学校や学生がニュースパークを訪れる中、慶應義塾の利用率は特に高い。慶應義塾横浜初等部の校外学習や、福沢研究センターのワークショップなどでもニュースパークを訪れている。

福澤諭吉による新聞の発展

慶應義塾を創設した福澤諭吉は、社会の中での新聞の役割を重要視した人物のひとりである。
福澤は明治15年に「時事新報」を創刊し、人々が他者に影響されず行動できる社会を目指した。当時各政党の広報として利用されることの多かった新聞を、異なる意見の対話の場にしようとした試みは、その後の新聞界に影響を与えた。

ニュースパークに展示されている時事新報。

さまざまな意見を対話させることは、現代でも変わらず重要である。現在、ニュースパークでは企画展「多様性 メディアが変えたもの メディアを変えたもの」が行われている。福澤が目指した、多くの立場の意見を交流させる社会。この実現のためにメディアが担う役割について考えさせられる展示となっている。ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

SNS時代の新聞

近年、社会はSNSから情報を得る時代へと変化している。無料で簡単に情報を集めることのできるSNSは、非常に便利なツールとして活用されている。しかし、SNSでの情報収集に対して、尾高氏は2つの懸念点を示す。
1つ目は、フィルターバブルやエコーチェンバーといった言葉で表されているように、自分と似た考えを持つ人とのかかわりばかりが増え、自分の知らないことから遠ざかっていくこと。2つ目は、真偽の定かでない大量の情報に、惑わされたり不安を煽られたりすることであるという。「新聞の未来は、民主主義の未来に等しい」と尾高氏は強調する。大量の情報に簡単に触れられる世の中で、新聞のように確かな情報を伝える媒体の存在意義は大きい。人々の命にかかわる出来事が起きた際、意義はさらに増す。
東日本大震災で、岩手日報は約5万人分の避難者名簿を載せた。連絡の取れなかった親戚や知り合いの安否確認を可能にしたこの取り組みは、多くの人を勇気づけた。一方、新型コロナウイルスの流行やウクライナ侵攻のときには、SNS上でデマ情報が出回り、インターネットは混乱を引き起こした。
多くの情報を簡単に手に入れられるのが現代社会の大きな特徴の一つだ。そんな時代を生きる私たちこそ、今一度正しい情報を見極める力の重要性を再認識する必要がある。
最後に、尾高氏は慶大生に対して「福澤諭吉が異説争論を唱えたように、異なる意見をぶつけ合わない限りイノベーションは生まれない。そこに挑戦する人になってもらいたい」とメッセージを残した。

この機会に、ニュースパークを訪れ、現代の情報社会について一度立ち止まって考える時間を設けてみてほしい。

ニュースパーク職員の方々。後ろには、日本新聞協会に所属している全国各地の新聞が展示されている。

(坪井悠子)