秋田魁(さきがけ)新報は秋田県で地域の情報を発信する県紙だ。19年度には「イージス・アショア配備問題を巡る『適地調査、データずさん』のスクープなど一連の報道」で新聞協会賞を受賞。22年には人口減少の著しい秋田で若者の価値観を探る企画『若者のミカタ』をスタートさせた。電子版やツイッター、ラインでの発信も強化している。2回目はデータ報道を手掛けるデジタル編集部次長の斉藤賢太郎記者に地方紙の強みやデータ報道、デジタル時代の記者の心構えを聞いた。

 

県民へ幅広い情報を届ける

「地方紙は”地域”という分かりやすいコミュニティがベースにあるのが強みだ」と斉藤記者は話す。秋田魁新報であれば秋田県民に向けて情報を届ける。

「地域コミュニティというつながりは強固なもので、そこにべースを持って取材する意味は大きい」と強調する。県内の積雪量や自治体発表など解像度の高い地域情報は、全国紙では扱われない一方、地域の人々にとっては関心が高い。地域の話題を記事にすることで、「新聞社に伝えれば取り上げてくれる」と読者が思い、それが新たな情報提供につながる。「この好循環が作れるのが強い」と話す。

コミュニティに入り込むからこそ書けるのが「人のストーリー」だ。スポーツ大会で優勝した子ども、地域活性化に奮闘する若者、地元で愛される商店や飲食店を営む名物店主……。「人のストーリー」は「地域内で共感を呼び、コミュニティをつなぐものとなる」

 

読者の関心に沿った記事を

「新聞の強みは信頼だ」と斉藤記者は強調する。近年ポータルサイトでニュースを読む人が増えた。情報の流通構造の変化を捉え、自社の記事が生き残る方法を考える必要があるという。

カギを握るのは、記事が「読者の関心とマッチしているか」。新聞社の価値判断と読者の関心は必ずしも一致しない。 読者の関心を表す指標にPV(ページへのアクセス数)がある。PVだけを狙うことには賛否があるが、「どれだけ多くの読者が関心をもったかという点でもっとも有力な指標であることは間違いない」という。

 

気軽に楽しめるデータ報道

現在メディア業界で注目を集めるのが、データ報道だ。行政などの公開情報から価値ある情報を見い出し、分かりやすく可視化する。

デジタル編集部の斉藤記者もデータ報道に取り組む。興味深い事実の提示と課題解決の糸口を目指す一方で「手軽に楽しめるコンテンツも重要だ」と強調する。

読者の親しみやすいテーマに挑戦すると以前よりも読まれた。最近注力するのは、新聞離れが顕著な子育て世代を意識した記事。「ユーザーデータの観察を通じ、高校受験のようにライフイベントと密接な記事は、有料でも一定のニーズがあると分かってきた」と語る。

秋田魁新報電子版「頑張れば頑張るほど地域が元気に!ふるさと納税、住民税の収入上回る自治体も」より

 

記者もPDCAサイクル意識

「デジタル時代の記者はPDCAサイクルを意識する必要がある」と斉藤記者は話す。以前は取材、執筆までが記者の仕事だったが、デジタル時代の記者は読者に届ける意識が重要だ。

サムネイル、WEB上の表示位置、WEB見出しなど、記事の「その後」も考える必要がある。記事の内容もデータを基に、読者の関心に適った記事を考える。「記者一人ひとりの心掛けが変われば新聞社に魅力的な記事が増えていくのではないか」と話した。

 

(粕谷健翔)