「若い人たちに今のアニメの世界を知ってもらいたい」
そう言って笑うのは株式会社MAPPA代表取締役大塚学氏である。

2021年12月24日の公開以降、興行収入130億円(2022年3月21日時点)を突破してなお爆発的な大ヒットを続けている『劇場版 呪術廻戦 0』。その制作を手掛けたのは設立から僅か10年のアニメーションスタジオ、MAPPAであった。確かな制作品質に定評がある一方、業界全体の問題に切り込んだ改革や後進の育成にも尽力してきた。常に最高の作品を生み続けるMAPPAの強みや、業界全体に視野を広げた活動の根底に眠る想い、そして今後の展望について大塚氏に話を聞いた。

お客さんに届けるために

© 2021 「劇場版 呪術廻戦0」製作委員会 ©芥見下々/集英社

『劇場版 呪術廻戦 0』は2020年10月より放送されたアニメ『呪術廻戦』を受けて制作された前日譚だ。公開から時間が経った今も止まぬ熱狂に、大塚氏は「しっかりお客さんに届いたと思います」と語る。「テレビシリーズのヒットを受け映画を制作するとして、お客さんにとって一番良いものを作る、喜んでもらえるにはどうしたらいいか。そうした会社としての試みのようなものが、かなりぎっしり詰まっています」作画の方向性や、『呪術廻戦 0 東京都立呪術高等専門学校』を原作にした過去話の制作。中でも一番の試みは公開スケジュールであったという。「劇中で重大な意味を持つ12月24日に公開すること。こうした試みがしっかりお客さんに届き、結果につながったのではないでしょうか」

劇中の目玉、臨場感あるアクションシーンはMAPPA作品の醍醐味の一つ。しかしながら、単に凄まじいアクションが90分、120分と続いていても観客に楽しんでもらえないのだという。「一番大事なことは、何を印象的に見せたいかということ。本当に見せたいアクションを一番良い形でお客さんに届けるために、緩急や間、キャラクター性をどう表現するか試行錯誤しながら取り組んでいます」

ファンから多くの支持を受ける、光や影の美しい描写についても同様だ。単に綺麗なものは世の中にいくらでも溢れている。そうしたものとどのように差別化していくのか。大塚氏はここにもキャラクター性を挙げる。「場面ごとにキャラクター自身の生き様、人生のようなものをきちんとお客さんに届けることで、ただ綺麗な画面ではなくて心に残るものとなります」本作の冒頭、原作にないイントロダクションとなるようなシーンを作ったのは、主人公である乙骨憂太の人生をお客さんに一番感じてほしかったからだという。「監督たちが彼に一番合う絵作りを構成していった結果、皆さんが綺麗だなとか良いなと捉えてくれているものが出来上がったのだと思います」

企業はあくまで『箱』

これまでMAPPAが手掛けてきた作品のジャンルは、驚くほど多岐にわたっている。2018年に放送された『BANANA FISH』はキャラクターの繊細な心情に寄り添った丁寧な描写が持ち味であり、先に紹介した『呪術廻戦』とは全く異なる種類の作品だ。このように異なるジャンルの作品同士の共存が実現する背景には、大塚氏のある考え方があった。「(MAPPA-)企業というものはただの箱でしかなくて。その実態は人なのです」企業としてうちを褒めていただけることはありがたいのですが、と前置きした上で更にこう続ける、「いろいろな人がいろいろなクリエイティブを発揮できる環境にある、ということが強みだと考えています」

手掛ける作品を選ぶ上でも、その根本にある想いは変わらない。「誰が、どういうクオリティをもってその作品をやりたいのかということが重要です。その作品ならお客さんにしっかり届くな、という確信を持てたら引き受けます」と語る。

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