〈映画と多様化の時代〉『アバター』トランスメディアP ジェフ・ゴメスさん

トランスメディア・ストーリー・テリング-。読者の皆様の多くには、なじみがない言葉かもしれない。だが現在、『スター・ウォーズ』シリーズや、マーベルのスーパーヒーロー映画をはじめとしたハリウッドの超大作映画で積極的に導入されている手法のひとつである。

 

「実は、’60~70年代に日本のアニメや漫画が導入したメディアミックスから大きな影響を受けています」と語るのは、ニューヨークでトランスメディア・プロデューサーとして大活躍するジェフ・ゴメスさんだ。作品の世界観を最大限に活用し、異なるメディア媒体を仲介する専門家として、これまでハリウッドの超大作映画に携わってきた。現在は、円谷プロダクション(以下、円谷プロ)と手を組み、日本発のヒーロー、『ウルトラマン』の世界展開を手掛けている。

 

 

トランスメディアとはなにか?

 「子どもの頃に観た日本のアニメや怪獣映画では、共通の世界観が存在し、キャラクターたちが互いの作品を行き来していました。後に、私はこれがジャパニーズ・メディア・ミックスと呼ばれていることを知る訳ですが」

 

キャラクター文化が根強い日本では、特定の作品の登場人物が、他作品や他のメディア媒体に登場することがめずらしくない。だが、アメリカ人のゴメスさんにとっては、それが非常に新鮮だったのだ。

 

「アニメやテレビ番組に共通の世界観が存在するという発想に、私は強く惹かれました。’80年代に私はこれをTransmedia Experienceとよぶことになります。同一の物語が繰り返されるのではなく、漫画や映画、テレビ番組など、様々なメディア媒体の間で、共通した世界観を持つ異なる物語が語られるという発想です」と話すゴメスさん。同様の手法を改良し、アメリカのポップカルチャーに導入する試みこそが、トランスメディア・ストーリー・テリングなのだという。

 

「日本のメディアミックスでは、各メディア媒体でストーリーが“再解釈”されていました(例:原作漫画を再編してアニメ化するなど)。それぞれがつながることはありません。ですが、私たちのトランスメディア~では、ひとつの作品世界の異なる側面が、多様なメディア・プラットフォームで語られます。これまでに私たちの会社は、ディズニーやソニーピクチャーズ、マイクロソフトやコカコーラなど、様々な顧客の作品や製品に対し、この理論を応用してきました」

 

ジェフ・ゴメスさん(米スターライト・ランナー社HPより)

困難だった少年時代

現在はトランスメディア・プロデューサーとして充実した日々を送っているゴメスさんだが、少年時代は困難な日々を送っていたのだという。

 

経済的に潤っていた戦後間もないアメリカには、戦争の傷跡の残るヨーロッパや、南米や太平洋諸地域など、旧植民地からの移民が押し寄せていた。しかし、不幸にも彼らの多くは貧困や偏見に苦しまなければならなかった。

1960年代、そんな移民の両親のもとに生まれたゴメスさんは、ニューヨークの貧しい地域で育つ。今でこそ国際結婚は普通のことになりつつある。だが当時、異なる母国に住む祖父母から結婚は理解を得られず、家族は経済的に困窮していた。

「無秩序で暴力と隣り合わせの非常に困難な環境でした。恐竜や怪獣が好きだったのですが、生まれつきの顔面神経麻痺の影響もあり、非常に内気な性格をしていましたね」

 

程なくして両親は離婚、ゴメスさんは父親の故郷であるプエルトリコで夏を過ごすようなり、そこで思いがけない出会いをする。「テレビで『ウルトラマン』が放送されていたのです。それまで、映画館や年1,2回のテレビ放送でしか出会えなかった怪獣が、テレビで毎週観られる。食い入るように画面を覗き込みました」とゴメスさんは当時を振り返る。

 




ウルトラマンとの出会い

「次の年の夏、プエルトリコに来ると今度は『ウルトラセブン』が放送されていました。私の大好きなシリーズです。ときにシリアスなストーリーと魅力的な怪獣たち、デザインにも素晴らしいものがありますからね。ニューヨークに戻ったらすぐに雑誌で情報を調べました(笑)」

 

そんなゴメスさんにはお気に入りのエピソードがある。『ウルトラセブン』第14・15話 『ウルトラ警備隊西へ』の前後編(脚本:金城哲夫,監督:満田かずほ(※禾(のぎへん)に斉))だ。人類が発射した観測ロケットを、侵略行為とみなしたペダン星人が、国際会議の行われる神戸へ、宇宙ロボット・キングジョーを送り込むという物語である。

 

「基本的には恐竜のような怪獣が好きなのですが、ロボットであるキングジョーは衝撃的でした。ウルトラセブンとの対峙はとてもドラマチックでしたしね。非常に興奮しました」

 

ゴメスさんが衝撃を受けたというキングジョー(円谷プロ提供)

 

大学時代の経験

さまざま困難を抱えながらも、ゴメスさんはニューヨーク市立大学クイーンズ校へ進学。そこでは後のキャリアに大きく影響を与える体験があった。

「大学時代は主に2つのことに熱中しました。なぜなら私は女の子たちと熱心に交流したわけではなかったからです(笑)」(現在は奥様とお子様をお持ちです)

まずは、エンタメやメディアミックスに関する勉強だ。「私は大学で文学と映画について勉強しました。事実、私は映画で学位を取得しています。また、コミュニケーション理論についても学習しました」とゴメスさん。

 

同時に、学校外での活動も大いに楽しんだ。

「学外では友人たちとロールプレイングゲーム(当時はボードゲーム)をして遊びました。そこで私は、最大限ゲームを楽しむために世界観をデザインし、何十人もがゲームに参加しました。参加者の声を聞き、物語を構築するという経験は、後の仕事の“練習”となりました」

学生時代のなにげないレクリエーションも、自身のキャリアに良い影響を及ぼしたということだ。

 

トランスメディア・プロデューサーへ

大学を卒業した後は、様々なキャリアを経験したゴメスさん。90年代に入ると、トランスメディア・ストーリー・テリングをアメリカのエンタメ界に持ち込もうと試みる。

 

「当時、私は、アクレイム・エンターテインメント(『モータルコンバット』などをリリースしたゲーム会社)の傘下になっていた漫画会社で働いていました。そこで彼らは、ゲームの世界を漫画へ取り入れてほしいと言ったのです。私は、漫画で、ゲームの作品世界についての新たなストーリーを執筆し、それに関するウェブサイトも作りました」。ゴメスさんの手法は人気をよび、成功を収めた。

 

2000年、ゴメスさんは漫画・ゲーム業界から独立し、映画や製品のトランスメディア・ストーリー・テリングを専門に手掛けるトランスメディア・プロデューサーとして、スターライト・ランナー・エンターテインメント社を設立する。

「素晴らしい仕事ですよ。作品制作の一員になれると同時に、ファンが喜んでいる姿をみることも出来る。『アバター』(’09年)では、憧れのジェームズ・キャメロンらと共に働きました。忘れることの出来ない経験です。「『パイレーツ・オブ・カリビアン』(’03年)や『トロン・レガシー』(’10年)のときは、ディズニーの幹部、数十人の前で作品の設定について語りました」と目を細める。

 

ゴメスさんは’00年にスターライト・ランナー社を設立した(本人提供)

日本作品との再会

やがて、映画制作に関わるようになったゴメスさんは、かつて夢中になった日本のポップカルチャーの担い手達と共に仕事をしたいと考えるようになる。だが、自らの理論は思うような理解を得られなかったのだという。

「’90年代から、私は日本のメディアや制作会社に対して、トランスメディア~の実用性について売り込みをしたのですが、残念ながら誰も私の提案を理解してはくれませんでした(笑)ですが、あるとき、ファンタジー映画を制作する中国の映画会社からは声が掛かったのです。北京の大学でトランメディア~に関する講義をしたりもしました」

 

そんなある日、ゴメスさんはロサンゼルスで、かつて『モータルコンバット』(’95)の製作総指揮を務め、「ライセンシングの神」と呼ばれるダニー・サイモン氏と話す機会を持つ。

「話し合いの最後に突然彼が私に尋ねるのです。『君はウルトラマンを知っているかい?彼は食事をしたりトイレに行ったりするのかね?スーパーマンの様には見えないが』と(笑)私は彼に説明しました。ウルトラマンは人類に直接干渉することなく文明を維持する守護者であり、文明社会のゆがみや人間の欲望がうみ出した怪獣に対峙する。物語には戦後日本の抱いていた未来に対する明るい展望が反映されている。それが『ウルトラマン』のエートスなのだと。作品に対する私の知識と理解を証明したのです」

 

ゴメスさんはそこで、サイモン氏の口から、日本の円谷プロが、『ウルトラマン』の海外展開を本格化させようとしていることを聞く。「僕に出来ることならなんでもさせてくれ!と言いましたよ」

 

海外で発行されたマーベル・コミックス版の『ウルトラマン』(円谷プロ提供)




ウルトラマンをプロデュース

サイモン氏とともに東京を訪れたゴメスさんは、塚越会長をはじめとする円谷プロの面々とシリーズの将来について議論を重ねた。

 

「彼らは私の作品への思い、そしてトランスメディア~の可能性を理解してくれました。同時に、私はハリウッドのスタジオやメディア・カンパニーの制作形態についてよく知っていたので、彼らにガイダンスやアドバイスを提供することができました」と語るゴメスさん。

 

現在は、円谷プロと一体となって様々なプロジェクトの推進に尽力しており、『ウルトラマン』の展開にとって非常に良いタイミングだと話す。

 

「エンターテイメント業界には、子供のころに『ウルトラマン』に夢中になった人たちが少なくないのです。日本のアニメや特撮の大ファンのマーベル・コミックスの編集長セブルスキー氏もその一人で、マーベル版『ウルトラマン』の連載が実現されたのも、ネットフリックスでウルトラマンの長編アニメ映画が制作されることが決まったのも、そういった背景が味方になったと思います」

 

写真中央が円谷プロの塚越会長、右隣がジェフ・ゴメスさん

映画業界の今後

ゴメスさんは、グローバル化が進む映画・エンタメ業界において、今後このような動きがさらに加速するのではないかと分析する。

 

「今日のグローバル化を歓迎しています。以前の“グローバル化”はある種、アメリカの文化帝国主義的な側面が強かった。各国の映画市場をハリウッドの物語が席巻するというものです。ですが、ネットフリックスやディズニープラスなど、ストリーミングサービスが各国のローカルマーケットに参入するようになったおかげで、地域に根ざした映画産業に資金が投入されるようになりました。結果として、日本のアニメや韓国ドラマなどの優れたコンテンツが西欧諸国でも観られるようになってきています」

 

逆境を乗り越え、そんな現代の映画業界で活躍するゴメスさん。取材の最後に、日本の若い世代へメッセージをくれた。

 

「私は幸いにして自らの夢を叶えることができました。もちろん、個人的に日本のアニメや特撮を愛好しつつ人生を終えることはできたと思います。ですが、私は世の中に対してメッセージを送り続けました。私のキャリアが証明しているように、自らの信念や理論を明確な形にすれば、才能ある人々や会社はいつかそれに気づいてくれます。それは“魔法”ではありません。不断の努力が重要なのです」

 

 

【プロフィール】ジェフ・ゴメス

トランスメディア・プロデューサー、脚本家。’00年 米スターライト・ランナー社設立。同社CEOとしてディズニー、コカコーラ、ソニーピクチャーズなど大手クライアントへのコンサルティングを担当。

 

円谷プロ塚越隆行会長のインタビューも併せて御覧下さい

次回は第3回です

 

石野光俊

 

 

 

※連載《ウルトラマンと戦後日本》過去の記事はこちら!

第1回 故・飯島敏宏監督 前篇はこちらから

第1回 故・飯島敏宏監督 後篇はこちらから

 

 

本記事で触れた作品を是非一度ご覧ください

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慶大出身、故・飯島監督の過去のインタビュー映像はこちらから。

https://www.haebaru-kankou.jp/index.php/kinjo-web-museum.html
沖縄・南風原町出身の脚本家、金城哲夫氏のWeb資料館です。

(南風原町観光協会提供)