10月31日 慶大81-85筑波大 ●
11月1日  慶大119-97筑波大 ○

今季のリーグ戦もついに最終週を迎えた。前週の第6週を終えた時点でトップ争いは慶大と日大に絞られた。共に9勝3敗。しかし、慶大対日大の直接対決では慶大が2勝している。したがって、慶大がこの最終週を2勝で締めくくることができれば、慶大の優勝が確定する。
気になる最後の対戦相手は、ここまで4勝8敗で7位と精彩を欠いている筑波大。下馬評では、慶大の圧倒的優勢かと思われたが―

筑波大第1戦目 不安要素の露呈

「これが筑波だ!」

昨年シックスマンとしてチームを支えた♯14酒井
昨年シックスマンとしてチームを支えた♯14酒井

ハーフタイムを迎え、両大学の面々が選手控え室へと引き上げる中、筑波大ベンチの一人がアリーナに向かって言い放った。電光掲示板に目を移す。慶大42―54筑波大。
このような展開を、いったい誰が予想しただろうか。
まるで筑波大選手たちの気迫が乗り移ったかのような3Pシュートが、次々とネットを射抜く。その度に、代々木第二体育館が歓声の渦に包まれる。一方の慶大は、イージーシュートのミスが目立つ。リバウンドをきっちりと取っているのに肝心のシュートが決まらず、中途半端なオフェンスが続いた。
「入りであんなに一番決めなきゃいけないところのシュートをボロボロ落としちゃって、そこから始まったよね。相手のシュートが入っちゃったということで(悪循環が)倍になっちゃった」(佐々木ヘッドコーチ)
慶大は第三ピリオドに逆転するも、最終ピリオドで筑波大に再逆転を許し、そのままゲームセット。手元まで手繰り寄せた栄光は、一気に遠のいた。
この試合、シュート決定率(3Pシュートを含む)が36.5%(85本中31本成功)と、一見シュート率の低さが勝敗に響いたようにも思われた。ところが、選手たちの敗因に対する認識は、別のところにあるようだ。チームハイの21得点を挙げた#5小林(4年・福岡大濠)は、「5人だけじゃ勝てないですよ。限界があります」と肩を落とした。また、#14酒井(3年・福岡大濠)は、「5人だけじゃ勝てないなというのを確認させられたというか。そこで1人変わったとしてもその流れでいけるようなチーム力を今後あげていかないと、インカレとかでも連戦で勝てないので。去年は(鈴木)惇志さん(昨年度主将)がいて、6人だったんですけど。今年は5人で戦わなきゃいけないので、シックスマンとか意識を変えてもらいたい。僕が言うことではないんですけど」と、こちらも本音をこぼした。彼らの挙げた敗因とは―そう、「シックスマンの不在」である。二人が口をそろえるのも無理はない。確かにイージーミスが痛手となったのは事実だ。しかし、勝負の分かれ目は、足をつった#14酒井が戦線を離脱した第4ピリオドだろう。主力が抜けたピンチにシックスマンという修正役を欠く慶大は、オフェンスが崩壊。第4ピリオドで慶大が奪った得点は、たったの5点だった。
シックスマン―この日のように序盤からスターターの調子が悪い時にこそ、起爆剤となってチームを上向きにもっていく“6人目”の選手。昨年までは、#14酒井がこの役割を果たしていた。アシスト、攻守にわたるリバウンドをそつなくこなし、時には30点以上のハイスコアをたたき出すほどの得点力をも兼ね備える、強力なシックスマン。彼のような、“胆力”をもった選手がシックスマンとしてスターターを支える側に回っていたことで、スターターはゆとりをもってプレイに集中することができていたし、チーム全体も引き締まった。シックスマンとしての酒井なくして、昨年のインカレ優勝は成し得なかったと言っても過言ではないだろう。ところが、今年の慶大ベンチには安定したシックスマンがいない。
このことは、かねてから慶大の抱える不安要素ではあった。しかしながら、昨年度の第60回全日本大学バスケットボール選手権大会(インカレ)優勝時の主力を4人も残し、ほとんどそのままのメンバーで5月に開催された関東大学バスケットボール選手権大会(関東トーナメント)を制したこともあってか、慶大はこの不安要素に対しては目をつむってきたという感も否めない。しかしいま、彼ら自身が5人で闘い抜くことに限界を感じつつあるほど、リーグ全体のチーム力が上がってきている。ここにきて、慶大の不安要素がありありと露呈した形だ。

筑波戦第二戦目 前を見据えて
試合終了後、コートに立っていた4年生たちは慶大らしいバスケットで勝利でき、安堵の表情を見せた
試合終了後、コートに立っていた4年生たちは慶大らしいバスケットで勝利でき、安堵の表情を見せた

「昨日からフッ切れたという感じです。もう失うものはなにもないので。しかめっ面をしててもしょうがないんで。笑顔で、笑顔で。すごくたのしかったですね」(#5小林)。
実は前日の試合後、優勝を目前に敗北を喫した選手たちは、ほとんどインタヴューできる状態ではないほど、落胆の色が強かった。しかし、インカレを1カ月後に控えたいま、選手たちは再び前を向いた。
前日とは打って変わって、慶大得意のトランジションゲームで勝ち切った。「トランジションを筑波が仕掛けてきたので、負けられないですよ」と佐々木ヘッドコーチ(HC)が話すように、トランジションこそが慶大バスケの原点だ。
「優勝がないので、今までの連中も最後に頑張ってきたという伝統を継承しなさいよと。負けてもいいけど、それだけは蹴らないように」(佐々木HC)。
「どっちにしろ、やるからには負けられないので、インカレに向けて、次のステップというのを頭に入れて、頑張れたと思います」(#7岩下・3年・芝)。結局、リーグ優勝は、最終週を2勝で飾った日大(11勝3敗)。10勝4敗で2位の慶大は優勝こそ逃したものの、リーグ戦最後の試合を自分たちのバスケットで締めくくることができたのは大きい。とはいえ、インカレに向けての不安要素が残るのもやはり正直なところ。筑波戦二日目にはディフェンス面での課題も意識した。「120点とるよという目標を掲げたので、その分オフェンスに練習をさかないといけないので、もう1回インカレまでにディフェンスをやり直して、100点ぐらいのゲームで決勝が戦えるぐらいのディフェンスを作り直します。春からずっとディフェンスの練習をしていない。どっちかに力点をおいて、次にいこうかなということなので。速攻めはある程度力が付いてきたので。(ディフェンスについては)ゾーンアタックね。春は相当練習して大丈夫かなと思っていたんだけど、駄目だった。練習しなくちゃいけないということね」という佐々木HCの反省の通り、ゾーンディフェンスをしかけてもピックアップがままならず、フリーの選手にやられてしまう場面もしばしばみられた。さらには、#16二ノ宮(3年・京北)のリーグ後半戦の極端な不調も心配されるところだ。筑波大との二戦でも共に4点にとどまるなど、リーグ前半戦から比べると明らかに精彩を欠いている。彼の存在なくして、慶大のトランジションバスケットにはエンジンがかからない。そしてもちろん、前日の敗北で痛感した控え選手の重要性についても、再確認が必要となるといえよう。
インカレまで、あと1カ月ある。リーグ戦で味わった4敗を糧(かて)に今一度チームを見直し、さらなる躍進を遂げた慶大バスケットを、大阪の地でぜひともみてみたい。

文:井熊里木
写真:阪本梨紗子、金武幸宏
取材:阪本梨紗子、金武幸宏、井熊里木