先月13日、慶大の阪埜(ばんの)浩司准教授、木須伊織特任助教らを中心としたチームが「サルから別のサルに子宮を移植し妊娠させることに成功した」と仙台市で開かれた日本産科婦人科学会で発表した。

同チームは体外受精させたカニクイザルの受精卵を、他のサルから子宮を移植したサルに移植し、妊娠させることに成功した。現在も妊娠したサルの容態は安定しており、妊娠は順調である。

非ヒト霊長類動物の中で子宮を移植し妊娠させることに成功したのは今回が世界初。木須特任助教は「技術的な面はクリアした」と説明する。

今後チームは、ヒトを対象とした子宮移植の実施を目指している。

子宮を持たない女性に希望

子宮移植は子宮を持たない女性が妊娠・出産できるようになることを目的とする。「生まれつき子宮がない女性や、子宮頸がんで子宮を失った女性への解決策の一つの選択肢になりたい」と木須特任助教は語る。

現在、子宮性不妊症への解決策としては、代理母と養子という二つの選択肢がある。だが、いずれも日本で受け入れられているとは言いがたい。

代理母については倫理的な問題や福祉的な問題があげられる。子どもがダウン症など先天的な病気であった場合、親が受け取りを拒否することがありうる。また、代理母が引き渡しを拒む可能性もある。

次に、養子制度については、子どもが両親の遺伝子を持っていないため日本では不妊当事者に選択されにくい。

代理母・養子制度に対し子宮移植は、自分たちの遺伝子を引き継いだ子どもを自分のお腹の中から出産できる。「生まれつき子宮がない人、子宮を摘出した人には大きな福音となるのでは」と木須特任助教は語る。

まだまだ課題も山積

しかし子宮移植にも大きな問題がある。生命に関わらない臓器に人が手を加えることの妥当性について倫理的な面での指摘がある。また、子宮移植の手術は提供者に大きな負担がかかる。さらに、他の臓器移植と違い、子宮移植は一時的な臓器移植であり、出産したら子宮を摘出する。拒絶反応予防のための免疫抑制剤を服用する必要を無くすためだ。現在、これらについては、賛否が分かれている。

木須特任助教は「子どもが産めないことにより苦しんでいる女性は多く存在する。治療を望んでいる患者さんがいる限り子宮移植という新しい技術の可能性を広げていきたい。しかし、子宮移植のヒトへの応用については日本社会の許容が必要だが、それは日本社会が決めることだ。我々の目的はあくまでも不妊治療の選択肢を増やすことだ」と語る。

今後もサルの実験は継続する予定だ。現在、慶大病院内の産婦人科、移植外科などを含むワーキンググループが日本産科婦人科学会、日本移植学会、慶應病院の三つに倫理申請することを目指している。

阪埜准教授は「子宮移植は短期的・中期的な子宮性不妊症への解決策にすぎない。なんらかの形で子宮を再生することができれば他人の臓器を借りなくても妊娠・出産することができ、倫理的な問題も解決することができる。最終的な目標は子宮を再生することだ」と語る。

(長岡真紘)