世界初と言われる、野球解説をサポートするAI(人工知能)が生まれた。名前は「ZUNOさん」。NHKとDentsu Lab Tokyoが共同開発した。クリエイティブディレクターとプロデューサーを務めるDentsu Lab Tokyoの田中直基さんと藍耕平さん、電通の末冨亮さんに話を聞いた。
 
ZUNOさんは2‌0‌0‌4年からのプロ野球公式投球データ3‌0‌0万球を学習しており、大きく分けて3つのことが出来る。
 
一つ目は、投手が投げる球を予測する配球予測。過去のデータから特徴を見つけ出し、未来を予測するディープラーニングという技術を用いる。
 
二つ目は、プロ野球の順位予測だ。配球予測と同じくディープラーニングによってシーズンが始まる前に各チームの予想勝率を計算し予測する。
 
三つ目は、データ解析や選手の傾向、能力を発見すること。例えば、大谷翔平選手であれば満塁の場面では両リーグで最も三振する、三日月の日は四球を与える確率が低くなるといった、意外でおもしろい発見をしている。野球のデータ同士や、野球のデータと月齢のデータを掛け合わせることで見つかったものだ。
 
データマイニングと言われるこの手法は、膨大な量のデータを扱える機械だからこそ出来ることだ。掛け合わせられるデータはほぼ無限にあり、ほかにも「母の名前がひろこ対決」、「次男坊対決」などユニークなものがある。田中さんは「この選手は目立ちたがり屋なのかな、など様々な推測ができる。選手の人間性が見え隠れするのを探すのも楽しい」と話す。野球が好きな人はもちろん、野球に興味が無い人もおもしろいと思えるはずだ。野球に興味を持つきっかけにもなるだろう。
 
またZUNOさんは「AIの不完全なところもお茶の間に届け、身近に感じてもらう」という使命も持つ。近年、囲碁やチェスなどでAIが人間に勝利したという報道により「いつか人間はAIに取って代わられるのではないか」と恐怖を持つ人も多いのではないだろうか。
 
「AIがすごいものとして捉えられすぎている。AIは局所的には人間を超えるポテンシャルを持っているが、総合的に人間のほうが圧倒的に上。成長のプロセスを共に楽しみながら、気楽に接してほしい」という。確かにZUNOさんは日本シリーズ第2戦での視聴者との配球予測対決では勝利を収めたが、順位予測や試合展開予測を大きく外すこともあった。
 
また身近に感じてもらうために、ソフトウェアには本来必要の無いビジュアルにもこだわった。スーツケースのような外見にかわいい目、小さな男の子の声。人格があるかのようで、愛着を持ってもらいやすい。
 
これまでに無い新しい野球の楽しみ方を提供し、低迷する野球人気を再燃させる立役者になれるか。ZUNOさんのこれからの活躍に大いに期待したい。
(浅野菜々子)