教養研究センター基盤研究講演会no.2「教養と演劇 現代人にとって、演劇は教養になるか」が先月12日、日吉キャンパス来往舎シンポジウムスペースで開催された。講師としてヘンリック・イプセンなどの北欧演劇研究の第一人者であり、元日本演劇会会長、成城大学名誉教授の毛利三彌氏が招かれた。
 
まず毛利氏は、教養とはもともと外来観念であるため、その正確な定義づけは難しいと前置きしながら、現代における教養とは「知識の類ではなく対象の事物に対する姿勢である」と示した。1‌9‌6‌0年代から1‌9‌7‌0年代にかけての大学紛争時には教養主義を批判するアングラ演劇の台頭により、教養は一時否定的に捉えられたが、現在は一種の流行にまでなっているという。
 
さらに毛利氏は自身の経験談を交えながら講演会を展開させていった。学生時代にクラスの友人らと協力して劇を作った記憶が何年経っても色褪せず、今の自分につながっていることや、現在、学者演出家として経験した舞台演出の難しさなどを話した。
 
毛利氏はこの講演会の中で「演劇は教養にならない」としながらも、演劇と教養のそれぞれの根底に共通する「議論」の重要性を説いた。議論とはお互いを批判しあうものであるとし、日本人にとってこの議論の習慣を身に着けることは今も昔もそして今後も決して容易なことではないが、開き直って議論するのを諦めることは教養を深める可能性を自ら潰してしまうのと同様であると述べた。
 
講演会の最後には質疑応答の時間が設けられた。数々の質問が飛び交い、参加者らと議論がなされた。