今回はニュージーランド・オークランドで開催された『HSBC Round the Bays 2009』で、7000人近くの参加者の中、見事2位に入賞した大石賢君(文3)に話を伺った。
大石君が本格的に走り始めたのは中学生の頃。小さい頃からいつも父親とランニングをしており、それが習慣化していることもあって大学では体育会にも呼ばれた。しかし大石君は「組織には入らない」というポリシーを貫いた。その主な理由は自己管理がしやすいため。陸上は大学の勉強とアルバイトとうまく両立させていきたいと思い、あくまで自主性にこだわるという。そのため彼は毎日10キロ以上の距離を自主的に走りこんでいる。「調子が悪い日もあるけど、走らないと結果が出ないことは自分がよく分かっている」という大石君。ちなみに長距離は1日休むと体力を取り返すのに3日かかるという。自主的に続けるには相当の根気が必要だろう。
そんな大石くんは、今年の春休みに大学のプログラムでニュージーランド・オークランド大学に留学していた。オークランドを選んだ理由は、ニュージーランドがマラソンの盛んな国であり、同時に英語を勉強するには最適な環境だと思ったからだ。留学中も、彼は学校の授業が終わると家に帰り、毎日多くて20キロもの距離を走っていたという。大会を知ったのは留学先の語学学校だという。ホームステイ先の家族に大会の詳細を調べてもらい、出場を決心した。
『HSBC Round the Bays』は、日本で言う『東京マラソン』と似ており、参加費を払えば誰でも参加出来る。ただし、東京マラソンのように抽選もオリンピック選考枠もないため、純粋に走ることを楽しむためのチャリティーの大会である。距離も8・4キロと、フルマラソンよりもずっと短い。大会当日、大石君のコンディションは最悪だった。会場まで行くのに迷い、荷物を預ける場所もなかったため、大会は財布を持ち、ジャージを腰に巻きつけて臨んだ。
チャリティーということもあり、スタート前の会場は和んでいた。しかし、スタートと同時に先頭集団の5人が猛ダッシュしはじめ、あまりにも速かったため、1キロ程で「速い人ばかりで勝てなさそうだから、楽しむことに専念しよう」と気持ちを切り替えたという。沿道の応援も多く、綺麗な景色の中、海風を受けて走るのは気持ちよかった。純粋に走ることを楽しんでいると、先頭集団のペースが落ちてきた。そこでペースを上げ、大石くんの1位独走状態が続いた。このまま優勝かと思われたが、後半から地元ニュージーランドの選手に抜かれ、3秒の間隔を空けられたままゴール。「1位の選手は初めの先頭集団にはいなかったし、勝ち方を知っていた。今回は作戦ミスだ」とレースの反省を語った。
それでも2位だ。レース後インタビューを受け、地元新聞には彼の名前が載り、すれ違う人には声をかけられたという。しかし本人は「チャリティーだし、競争のない国だったからこその結果だと思う」と大会を振り返る。
「次は福岡国際」
大石君の次の目標は、12月に開催される福岡国際マラソン。標準記録を超えたため、2年間有効の出場権を獲得した。将来の夢は教職を取り、英語と仏語を教える語学教諭になること、さらに東京マラソンのオリンピック選考会の部でスタートラインに立つことだという。「空いた時間に走って、いけるところまで行きたい」と語る大石君。努力することが格好悪く見られがちな現代に、彼のような時代の価値観に流されない存在から、同世代の我々はもっと学ぶべきなのかもしれない。

(石川智成)