「『笑い』は相手に心を開かせる最も強力な武器です」。そう語るのは、慶大SFC研究所上席所員FCL代表・白井宏美氏だ。氏の専門は社会言語学・コミュニケーションであり、ゼミナールでの研究は、「何がヒトを惹きつけるのか」という疑問から出発した。その焦点は「笑い」である。昨年、コミュニケーションロボットPepper(ペッパー)とヒトという異色の組み合わせの漫才コンビ「ペッパーズ」と共に、「芸人Pepperプロジェクト」を立ち上げた。ロボットとヒトが笑いを生み出す。しかしそもそも、ヒトにとって「笑い」とは何だろうか。
 
私たちが「面白い」と感じる瞬間の代表は、お笑い芸人がテレビで話をしている場面だ。彼らはプロであり、独自のテクニックを持っているものの、話し手だけで笑いが完成しているのではない。共演者のリアクションやツッコミがあるからこそ「ウケる」のである。
 
また、タメ口をきいたり毒舌だったりと、一歩間違えれば嫌われてしまうような部分をさらけ出し、かつ「失礼だ」と感じさせない芸能人がいる。彼らをよく観察すると、ただ思うままに発言しているのではなく、相手を立てるときは立て、謙遜するといったメリハリの効いた姿勢を見せている。つまり、場面や相手に応じて自らの出方を調整しているのだ。
 
このことは日常会話においても同じである。話し手と聞き手、その双方のキャッチボールがうまく交わされることで心の距離が縮まる。そして「笑い」がその相互作用の中にプラスされることで場が和んだり、親密な空気が生まれるのだ。
 
時には緊張してしまう場面もあるだろう。特に、目上の人に対してはどのような時も敬語を使い続けることが礼儀だと思うかもしれない。しかし肩の力を緩めリラックスして、場面や受け手に応じて出方を工夫することで、相手の懐に入ることができる。
 
ここで言えることは、万人に「ウケる」方法はおろか、「好かれる」方法など存在しないということだ。もちろん相手への配慮は必要だが、「嫌われるかもしれない」というキャッチボールに対する不安は、独りよがりなものに過ぎない。八方美人にならず、勇気を出して自らの個性を堂々と表現し、相手と向き合うこと。これこそが真のコミュニケーションだ。
 
また白井氏は現在、プレゼンテーションの上達や涙の効用など、様々なテーマでロボットの新たな可能性を研究している。ロボットとヒトが共存していく時代の、新たな形のコミュニケーションの探求。個性や見た目の違いが全くないロボットだからこそ、ヒトが当たり前に行ってきた営みにヒントを与えてくれる。
(下村文乃)