遺伝子検査が注目を集めている。検査キットに唾液を採取して送付するだけで、遺伝的に発症しやすい病気を知ることができるほか、祖先がどこから来たのか、果ては好奇心の強さにいたるまで自分の遺伝子情報を知ることができる。今回は日本における遺伝子検査の嚆矢的存在であるジーンクエスト株式会社の高橋祥子氏に遺伝子検査に関する疑問を聞いた。

遺伝子検査でわかることを教えてください

―遺伝子検査ではがんの他にも2型糖尿病や花粉症、アトピー性皮膚炎、骨粗しょう症など多くの病気のリスクの他に、アルコールに強いかどうかや痛みの感じやすさ、記憶力や乳糖耐性、骨密度などの遺伝的な体質も知ることができます。その数は現段階で約290項目にも及び、今後も研究が進むにつれて増えていくと見込まれています。

遺伝子検査のメリットはどこにありますか?

―自分の健康リスクを事前に知っておくことで、その情報に合わせてリスク回避の行動をとることができます。病気の発症には遺伝的要因と環境要因の2つがあり、この両方が寄与するものについて遺伝的要因の情報提供をしており、環境要因については食事や運動など生活習慣を変えることで予防ができます。

一方で、デメリットは何ですか?

―ゲノム情報を今後どう扱っていくかようやく議論が始まったところで、倫理的基盤が形成されていないという問題もあり、知ることのリスクがあります。例えば、自分はがんになる可能性が高いと知った際の精神的な負担等です。これについては、現時点で一般に遺伝子の知識がきちんと伝わっていないことも要因と考えており、本人が理解し同意した上で受けることで大部分は回避できると考えています。

新しい科学技術が倫理的問題を引き起こすようになってきていることをどう考えますか?

―法則性を見出すことを目的にしている科学に対し、倫理は宗教や幸福に関するものです。そもそも目指しているところが違うので分けて考える必要があります。現在は遺伝子組換えなどの科学技術、つまり「何ができるか」が先にあって、そのあとに世の中で倫理が形成され、最後に様々な利権が絡んできて法律ができます。しかし科学が高度化してくると科学リテラシーを持つ人が少なくなるという問題があり、このために倫理に関する議論が遅れ、結果として科学のメリットを使えない世の中になってしまうという危機感があります。




では、どうしたら良いでしょうか?

―時代の流れを見極めることが重要です。バイオ技術が発達してきて2003年にヒトゲノムが解読された時点で、次に解析利用の段階に入ることは予想できました。時代の流れを止めることはできません。教育によって倫理の形成に先手を打てるようにすることが重要だと思います。
(田島健志)