数人のグループで会話している時に、発言者が目立つ人に偏っていて自分は何も言えない、そんなもどかしい思いをしたことはないだろうか。このような時に使える装置が、「SpeechJammer」だ。話者の発した音声を少し遅らせてその人のみに聞かせ、強制的に発話を阻害する装置である。

これを発明したのが、津田塾大学学芸学部情報科学科准教授、栗原一貴氏だ。彼は2‌0‌1‌2年に、この発明でイグノーベル賞を受賞した。これは、人々を笑わせ、そして考えさせる研究に与えられるものだ。

開発のきっかけは、プレゼンテーション中にうまく喋れていない時にコンピュータが教えてくれるという発明だ。プレゼンテーションに必死な時はコンピュータからのアドバイスに従うことが難しかったため、もっと強制的に話し方を変えられる装置を考案した。

また、元々内気な性格であるという栗原氏は、これをグループでのコミュニケーションに活用できるのではないかと考えた。この装置を使えば、「声の大きい人が勝つ」というような状況を払拭できる。

栗原氏は小さいころからプログラミングに熱中していて、理系の道に進んだ。「コンピュータは人を幸せにできる、世界を変える力がある」と考え、ヒューマンコンピュータインタラクションの研究を行っている。

「SpeechJammer」以外にも、斬新な発明は多数ある。例えばヘッドホンの形で「耳の蓋」を可視化し、スマートフォンでその開放度を調節する「Openness-adjustable Headset」だ。周りの音をシャットダウンしたり、特定の話題や音楽を聞かないようにしたりできる。

このようなユーモラスな発想のために大事なポイントは2つあるという。一つ目は、何と何を組み合わせたら面白いか、常にアンテナをはって意識することだ。机に向かうだけでなく、日常生活の中にもヒントが潜んでいる。

二つ目は、一つの技術に対して、どのような層にうけるか、様々な応用例を考えることだ。発明を生み出す際にも、様々な層を意識した形を考え、その中から最終形を選んでいると言う。

写真提供:栗原氏ホームページ
写真提供:栗原氏ホームページ
人を笑わせることについて、彼は「笑いは情報の一部」と考える。「科学者の研究は高尚で、凡人には理解できないものだと決めつけるのは放漫な態度。自分の研究にはエンターテインメントの性格を持たせ、理解を助けることを積極的に行っている」

栗原氏は、社会における自身の研究の役割について、「世間に何か問題提起することも研究者の重要な社会貢献の一つ」だと語った。これからも、彼の研究はコミュニケーションの常識を変えていくだろう。
(新山桃花)

【特集】笑顔のつくり手たち