【多事創論】これからの大学教育を考える 京都大学総長 山極壽一氏

【連載主旨】多事「創」論 「自由の気風は唯(ただ)多事争論の間に在りて存するものと知る可し」「単一の説を守れば、其の説の性質は仮令(たと)ひ純精善良なるも、之れに由て決して自由の気を生ず可からず」。世の中は一つの考えでまかり通っている訳ではない。多様な意見こそが決められた道のない今の時代を生きる我々にヒントを与えてくれるはずだ。福澤諭吉が唱えた自由の気質になぞらえ、広く多くの意見を集めて現代社会の課題を考えていきたい。
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自由さと自主性重んじる 大学は考える場、実践の場

京大圧縮

熱意動機は教えられない 「窓」としての大学
これまで大学は「門」に例えられることが多かった。各大学には立派な門があるし、「狭き門」という言葉もある。その「門」をくぐれば大学生といった具合だ。

しかし、大学をそこまで世間から隔離してはいけない。企業や学外の人が大学に入り学生と関わる。学生も大学の中だけでなく街や世界に出て自分の能力を高める。大学は相互の交流や風通しをよくする「窓」であるべきだ。

大学が「窓」であるためには学生が自由な発想で様々な分野を渡り歩き、そこで身に着けた能力や知識を実践の場で試すことが必要だ。そのために教員は、このような実践の場がある、ということを示さなくてはいけない。しかし、いくら学生に実践の機会を提供しても、学生に熱意、動機がなければ意味がない。

熱意や動機を持った時、いかに学術や社会と結び付けるかは技術だ。そのための環境と先端的な科学技術や考え方は大学で教えられるものだ。例えば、国際舞台と言っても国外の企業や大学などにつながるルートがなければ、学生にどれだけ熱意があってもその舞台に立つことはできない。しかし、大学で絶対に教育できないことが熱意と動機だ。物事への興味や執着は学生たちが自発的に持つことで、誰かが教えることではない。

熱意や動機を持った学生たちを育てるために学生は自分の責任で自由な活動をしてほしいし、教員にもできるだけ自由な教育研究活動をしてほしい。いまは学生、教員の管理が重要視されているが、自由な活動をしてもらうのが大学という時間であり、空間だ。

学生や教員が元気になってくれないと新しい研究や学びは生まれない。海外に出ていく学生のために支援金をいくら作っても、学生自身が海外で何かやりたいと思わなければ意味がない。自由な環境で学生、教員の自主性を高めたいし、大学の自由な活動を守るためには少し世間から学生を守らないといけないとも思う。

数字より中身が大切 自由に能力伸ばす環境を
大学教育改革に関して、文部科学省が求めているのは「留学生数30万人」や「世界の大学ランキング100位以内に10校」という、数字に表れる結果だ。

しかし現場を仕切る教員が本当に望むことは数字ではなく中身だ。実際に学生がどういう能力を得たか、実際にどういう研究者交流が進んだか、どういうプロジェクトが新しく生まれたか、ということが我々にとっての関心事だ。結果として日本への留学生や日本からの留学生が増えたり、国際的な共著論文の数が増えたりするのはいいと思うが、我々は中身がなく数字だけを増やすような手段に出たくない。

「イノベーション人材」の育成も盛んに叫ばれているが、イノベーションは同じ能力を持った人たちが競争しても生まれない。違う能力を持つ人が出会って面白いことを考えて、そこが発熱する。それがイノベーションの原点だ。学生たちが自由に自分の能力を伸ばせる環境を作ることが「イノベーション人材」を作ることにつながると思っている。

大学は思考、実践の場 求められる積極性
学生に言いたいのは待ちの姿勢ではいけないということだ。もっと活気づいて欲しい。我々から提案して旗を振っても学生がついてこなければ何にもならない。学生がやりたいことを出して、我々も何かできることを考えるという方が本来の大学らしい。

大学は考える場、実践の場だ。これまで得た知識をどうまとめて人に説明できるか、考えを実行に移すためにどういう方法があるかを学ぶ場だ。

それにはすべて積極性が求められる。「学びに来ました、どういうことをさせてくれるんですか」という受け身ではいけない。自分を外から見つめ直し、自信を持って道を切り開かなくてはいけない。そこが大学を面白くしていく原点だ。学生自身が貪欲に何かをつかみ取っていった方が大学も良くなるし世の中も良くなる。

選挙権も18歳まで引き下がるだろう。大学生になれば国政にも責任を持って参加できるようになる。そうしたことを自覚して、自分たちがこれからの日本や世界を作っていくという認識を持って欲しい。私自身もそういうことで悩んだことがある。今の学生にも同じ悩みを持って欲しい。20年後は君たちの時代だ。

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【京都大学】
京都大学は1897年の創立以来、「自重自敬」の精神に基づき自由の学風を育み、創造的な学問の世界を切り開いてきた。高い倫理性に支えられた自由の学風を掲げながら先端的・独創的な研究で世界最高水準の研究拠点としての機能を高め、社会の各分野において指導的な立場に立ち、重要な働きをすることができる人材の育成を目指している。

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10回にわたり連載してきた「これからの大学教育を考える」も今回で最終回となる。グローバル化に伴い、現在、大学は変革の時を迎えている。教育の最高機関としての役割はこれからも変わらないだろう。しかし、大学入試制度改革を始め、留学生の受け入れや社会で求められる人材の変化にどう対応するかなど、改革を求められる点も多い。これから大学はどこへ向かうべきなのか。これまでのインタビューを機に考えるきっかけとなったのなら、幸いである。