危険啓発の方法に課題

「危険ドラッグ」の使用者が引き起こしたとされる事故に関して、頻繁に報道されるようになった。しかし危険ドラッグについて漠然とした認識に留まっている人も多いだろう。今回は、厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課課長補佐を務める渕岡学さんに話を聞き、その実態を分析する。

まず、厚生労働省が昨年無作為に抽出した市民を対象に行った申告制のアンケートの結果によると、危険ドラッグの使用経験を持つ20~24歳は146人中1年以内のみに1人、1年以上前のみに1人で合計2人。身の回りの若者146人につき2人が使用者と考えると、決して少なくはない人数だろう。危険ドラッグの影が一層身近に迫る思いがするのではないだろうか。

ここでさらに注目すべきは使用者の社会的属性だ。一昨年発表された厚生労働省研究班の研究報告書によると、危険ドラッグの使用者の約67%が高卒以上の学歴を持っている。一方、覚せい剤の使用者の約70%が高校中退以下である。既存の薬物と比較すると、危険ドラッグは確かに私たち大学生にも手を出しやすい状況にあることが分かる。

では、なぜこの危険物は「身近」なのか。主な要因は低価格であること、また商品によって成分が異なるため、一つ一つを指定薬物として取り締まる国の動きが追い付かず蔓延したことだ。これに対しては昨年2月から、危険ドラッグに含まれる成分のうち、似た成分をまとめて指定薬物とする「包括指定」という対策が取られた。また、警視庁は危険ドラッグを所持しているドライバーを発見した場合は常習性や運転に悪影響を及ぼす成分などが確認できれば運転免許を最長で6か月間停止する方針を固めた。

このような対症療法的な対策以外に、使用者数の増加を食い止めることも肝要だ。厚生労働省は、ネット上での危険ドラッグの取引を監視し、業者に警告するなどして対応している。小学校6年生、高校3年生、若年労働者には、薬物の危険性を知らせる資料を配布し、また、目に留まりやすいポスターや内閣府のネットテレビを通して啓発を行っている。しかし、定番化したポスターが改めて注目を集める力は弱く、内閣府のネットテレビを日頃から観ているのは少人数だ。ネットテレビに関しては、観た人にその内容をまわりに伝えてほしいとのことだが、一部の視聴者に依存するのではなく、直接的なアプローチこそが重要といえる。また、厚生労働省には多くの人が目にするテレビCMを制作する予算はなく、啓発の方法を新たに考案する予定もないという。危険ドラッグに特化した啓発も行われていない。取り締まりを共に行っている厚生労働省や警察などが費用を分担し、テレビCMの制作など、より効果的な方法を検討することが求められる。

2000年代から現れて「脱法」によって逃げ延び、知らぬ間にその体を肥大させていた「危険ドラッグ」。誘惑に負けてしまう人がこれ以上増えないよう、危険性を一人一人が積極的に認識しなければならない。厚生労働省をはじめとする政府機関は現状に見合った方法でそれを促す必要がある。(成田沙季)