6月17日、日吉キャンパスにてフランス映画祭の公式イベント「大学特別講演会」が開催された。大学特別講演会は1997年度から始められたイベントで、日吉キャンパスでは翌年から毎年行われている。

 今年のゲストは、なんとフランス代表団の団長も務めているコスタ=ガヴラス監督! 監督は、「Z」「ミッシング」など社会派の作品を多く手がけ、アカデミー賞を始め数々の映画賞を受賞してきた巨匠。会場には、偉大な監督とのコンタクトを楽しみにしてきた学生と、近隣の映画ファン、フランス語の先生など多くの人が集まった。

 講演会は、今回の映画祭で上映された新作「斧」の話題から始まった。「斧」というタイトルがつけられた理由について監督は「『斧』とはギロチンの刃のことを指します。突然困難にぶつかるという別の意味もあるんですよ」と語った。

この作品が制作された背景については「『斧』は一種のメタファーなのです。何についてのメタファーかというと、ヨーロッパの失業問題のことです。東欧やロシアにおける社会主義ブロックが崩壊して以降、現在の社会では、人間性よりも経済が重視されているように思います。野蛮な自由主義、資本主義の横行です」とグローバル化する社会に警鐘を鳴らした。

 監督からはこの他にフランスにおける映画の助成制度に関する話などがされた後、学生からの質問タイムとなった。「フランス映画とハリウッド映画の違いは?」という質問に対して、監督は自身もハリウッドで何本か作品を制作した経験をふまえながら、「アメリカでは、映画は商品です。しかしフランスでは、映画は商品である前に芸術作品なのです」と答えた。

また、「絶対見ておくべき映画は何ですか?」というストレートな質問に対してはこんな回答を。「『七人の侍』、ジョン・フォードやフランシス・コッポラの作品などいろいろあるでしょう。その中でも特に、無声映画を見てほしいと思います。なぜなら無声映画は映画の成り立ちそのものであり、無声映画には音以外の映画の要素がすべて含まれているからです」

この後さらに多くの質問が寄せられ、活発な議論が展開された。まさに聴衆が「議論好きなフランス人」になったかのようなひと時であった。