数々のコアな映画ファンを魅了してきた銀座テアトルシネマ(東京都中央区)は2013年5月末、その27年間の歴史に幕を閉じた。デジタル化やレンタル市場、若者の映画離れなどで近年相次ぐミニシアターの閉館から、その存亡を危惧する声が聞かれるが、現状のミニシアター文化はどうなっているのだろうか。 (大橋真葵子)

手作りの掲示やファンからのメッセージ
シネコンとの違い見せる
ミニシアターとシネマ・コンプレックス(シネコン)の最も大きな特徴の違いは、大衆向けではなく一部のコアな映画ファンを狙った作品が上映されること。数多くの作品を一挙に上映するシネコンでは埋もれてしまうような作家性の強い作品を、ミニシアターでは選別して上映する。そのように世間一般には知られていないようなマニアックな作品を視聴することができる。
シネコンに訪れる客が実際に映画を見に来る平均頻度が年1回以上であるのに対し、ミニシアターに訪れる客の平均は月1回以上。より多くの“映画好き”が集まるのがミニシアターであるといえる。
「90年代半ばに知のファッション化の流れがあり、ミニシアターはひとつのブームだった」と東京テアトル株式会社広報担当の高原氏は言う。ミニシアターのマーケットが拡大しすぎて供給過多となった結果、現在ミニシアターが相次いで閉館に追い込まれている。ただ、映画業界は2000億円市場とされ、3D映画の流行や震災の影響を除けば、その数字は昔から大きく変容していない。しかし、90年代半ばにいわゆるサブカルチャーが若者の間で流行した時代から約20年。ただ小難しく洒落た映画を流すだけで人々がわざわざ映画館まで足を運ぶ時代ではなくなった。現代には「情報感度が高い」若者が増え、若者の娯楽は多方面に向かい、物を買い集める傾向から体験型へと移行している。
そんな中、銀座テアトルシネマが重点を置いていたのは「お客様とのコミュニケーション」だと高原氏は強調した。規模の大きいシネコンでは実現できない接客サービスは当然のこと、観客同士の交流や製作者との団らんなどイベント性の高いさまざまな仕掛けを施していた。その言葉通り、銀座テアトルシネマに実際足を踏み入れると、入口の壁には当館を利用していたファンからのメッセージの書き込みがあり、ロビーにも作品の写真や見どころなどが貼られていた。館内の至るところに「手作り感」が溢れ、映画を楽しんでもらうための雰囲気作りと一本一本の作品に込められている愛情が感じられた。
銀座テアトルシネマの劇場内(東京テアトル株式会社提供)

銀座テアトルシネマは、多くの映画ファンに感謝の意を込めて、過去の選りすぐりの作品を《さよなら興行》という特別編成で上映した。そして現在、ファンに愛されたその作品のラインナップは同系列のヒューマントラストシネマ有楽町(東京都千代田区)にて引き継がれている。
「ミニシアター文化は必ずしも衰退していくものではない」と高原氏は語る。ありとあらゆる娯楽が溢れ返るこの時代。その中でひとつの選択肢としてミニシアターという文化に少しでも興味を持てたら、是非劇場まで足を運んでみてほしい。当時の流行の残り香の中に現代の“映画”とは違う新たな発見があるかもしれない。