女性の社会進出、そして、それに伴い表面化する少子化や晩婚化。これらを「大して目新しくもない社会問題」などと割り切ってはならない。数十年に渡り、 自分が職場、あるいは家庭のなかで過ごすことになったとき、これらの話題は、常に目新しいものとして対面することになるはずだからだ。

今回は、ワーキングマザー(以下WM)、つまり「働くお母さん」という存在に注目した。

ムギこと勝間和代さん(91年慶應義塾大学商学部卒)は、WMコミュニティ「ムギ畑」の主宰者を務める。朝早くの取材には、お子さんを歯医者に連れて行った後にいらしてくれた。主宰者である彼女も、当然のことながら正真正銘のWMなのである。

「転職するときに出来た2ヶ月くらいの時間が暇だったんですよね」という明快な理由からサイトを発足したそうだが、いまやムギ畑は4400人以 上の会員数を誇る巨大コミュニティである。ムギ畑は情報交換によって現役WM同士が支えあう場であり、将来WMとなる女性にも役立つ「知恵袋」的存在でも ある。

勝間さんは大学4年生のときに妊娠・出産をしている。既に単位がほとんど満たされていたこと、そして2年生のときに2次試験までをクリアしていた公認会計士の資格が、就職に大いに役立ったこともあり、学生時代の出産自体に大きな問題はなかったようだ。しかし学生生活の傍ら、公認会計士3次試験 に向け在職していた日系の大手監査法人では、残業・出張こそ無かったものの女性に対する特別視があった。その後に勝間さんが在職した企業がいずれも外資系だったのは、WMに対する十分な理解が既にあったためである。女性が働くにあたり、雇用する企業が女性に対しどれほど抵抗を感じるか。それは職種よりも環境による影響が大きい。 勝間さんは少子化の要因の一つに、日本における女性の社会進出の遅れ、そして育児の支援不足を指摘する。保育園やベビーシッターの不足など、育児と労働の 両立に不向きな現状を、M字型曲線(※)が物語る。そして、もう一つの要因は男性の育児時間の短さ、労働時間の長さだ。例えばフランスの法では週間労働時 間を35時間以内と定めているのに対し、日本の法ではそれを40時間としている。更に、サービス残業などにより収入と不釣合いな時間を労働に費やしている のも現実だ。




では社会が変わり、諸外国との労働時間の差が埋まるまでは男性は育児に十分に参加できないのか。そんなことはない。「喫煙、飲酒、テレビ……。そういう〝時間泥棒〟になっているものをやめれば、男性も女性も、十分な時間を作れるものなんです」。

男か女かという理由で、個人の能力が正当に評価されないのは、企業にとってもコストでしかない。社会の変化に対応しきれず、企業が変わり始めるには20~30年を要するという。

仕事と育児の両立は一見大変そうだが、互いの場で溜まったストレスが相殺されることもある。複数の子どもがいれば、兄姉が下の子の面倒をみてくれるし、親を支えてもくれる。

勝間さん曰く「世間が思うほど、WMでいることは大変ではない」。大事なのは恵まれた環境に身を置くことだ。就活に励む人にはOB・OG訪問を薦める。あなたの希望する場所で働く社員たちは、幸せそうにしているだろうか。

(谷田貝友貴)

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※M字型曲線…女性の年齢別労働人口をグラフで示すと、30代の就労人口が少ないため、グラフがM字の形になること。