「地球環境を学べるカードゲームを作る」。塾生のそんな発想が、現実のものとなった。

 8月8日、全国の丸善書店とamazonで、地球環境カードゲーム「マイアース」が発売された。「地球守護プレイヤー」と「環境破壊プレイヤー」に分かれて遊ぶ、対戦型カードゲームである。

 「地球守護プレイヤー」は美しい写真の添えられた「海」「ホホジロザメ」などの生態系カードを使って地球環境保全を目指す。一方、「環境破壊プレイヤー」は「二酸化炭素」「サンゴの白化」といったカードを用いて、環境破壊を進める。そこへ、どちらへも影響を与える存在として、人間の活動カードが登場する。

 現在、第1弾として、計71種類のカードが販売されており、教育現場での配布も行われている。

 開発のうえで中心的役割を果たしたのが、岡崎雄太さん(政策・メディア研究科修士課程1年)と、横山一樹さん(東大新領域創成科学研究科修士課程1年)の2人。共に今春、慶大総合政策学部を卒業したばかりだ。

 昔からカードゲームが大好きだった岡崎さんが、環境問題の学習と対戦型カードゲームという組み合わせを思いついたのは、学部生の時だったという。その発想に共感したのが、横山さんだった。「環境問題においては、地球を守ろう、といった観念的なメッセージばかりが先行して、個人が主体的に考える余地がない、という問題意識はありました」と、横山さんは言う。

 カードの試作、改良を重ねたが、商品化の道筋は見えず、カード開発以外の道も検討したという。学年も上がり開発と就職活動の間で揺れ動く中、学生ビジネスアイデアコンテスト大賞の受賞が転機となった。

 「カードの構想が理解された」と勇気づけられ、2人は大日本印刷を訪れた。「カードは紙だから、印刷会社が良いという、単純な発想からです」と、横山さんは笑う。

 異例ではあったが、同社の事業企画推進室などを通じて、産学連携の開発が始まった。テストマーケティング期を経て、ついに今年7月、同社と学生2人の間で合同会社マイアース・プロジェクトの設立へと至ったのである。

 企画実現のうえで強みだったのは、NPO法人や企業などが、自身の環境保護活動をカード化することで、ゲームを、「メディア」「広告媒体」として機能させた点。その利点が功を奏し、この夏の発売に至った。

 「思えば、学生が早い時期から研究プロジェクトに参加できるSFCで学んだからこそ、出来たのかもしれません」と、岡崎さんは振り返る。

 地球温暖化などには、依然として根強い懐疑論もある。カードの作成にあたって、慶大教授の監修を受けていると述べたうえで、横山さんはこう語る。「環境問題における正解は、僕にも分かりません。しかし、曖昧なものだからこそ、議論を起こす場作りが重要だと思います。出来るだけ多様な意見が反映されるよう、カードを増やしていきたいです」とも話した。

 これからの「マイアース」の構想を楽しげに語る、2人の笑顔が印象的だった。

(花田亮輔)