近年、日本における人工中絶件数は年間約30万件、つまり一日約800件だという。これは、2分間に一人のペースで女性が中絶をしていることに値する。さらに、中絶をする年齢層で圧倒的に多いのは、20~24歳の女性。「望まない妊娠」で悲しみ、苦しんでいる多くはちょうど大学生の世代だ。

 ならば避妊をすべし、と多くの人は男性主体で使われる避妊具としてコンドームを思い浮かべるだろう。だがコンドームでの避妊失敗率は3~15%。それに対しピルでの避妊失敗率は0・1%以下。しかしこの事実はあまり知られていない。

 確かにコンドームはHIVなど性感染症の予防に不可欠ではあるが、より確実性の高い避妊のためにはピルを併用することが理想的なのである。それにも関わらず、いまだ日本のピル普及率はわずか1~2%にしか満たないという。

 昨年10月、こうした実態を問題視して、SFCに避妊・ピルの普及啓発活動に取り組む「学生団体ピルコン」が誕生した。これまでに中絶・避妊・ピルについての啓発・情報冊子を作成、イベントでの配布、またピルブログの募集と公開、ピルユーザーの情報を公開するなどの活動が行われてきた。今年1月には遠見才希子さん(聖マリアンナ医科大学医学部)をゲストに招き、SFCで講演を行った。彼女は学業の傍ら「若いうちからこそ自分のからだのことをきちんと知っておいてもらいたい」という熱意で、中高生から社会人までを対象に「性教育」の講演活動をしている医学生。無関心な性交渉で身も心も傷ついてしまう若者を増やさないために、そして傷ついてしまった若者を一人でも多く救おうと、各地で単独講演を行っている。彼女もまた「日本のピル普及率の低さを見過ごせない」と語る。

 ピルというと、偏見や無理解から服用をためらう人は少なくない。ピルは女性ホルモンのバランスをコントロールするがゆえ、吐き気や頭痛などの副作用が見られる場合もある。しかし、個人差はあるものの、症状は飲み始めの一時的なものであるという。旅行に買い物、仕事や試験など、忙しい現代女性にとってやっかいな生理不順や月経痛を改善するなど、ピルの効用は避妊だけに留まらない。

 ピルは女性が主体となって望ましい妊娠・出産を可能にし、女性のライフデザインをサポートする薬といえるのだ。低用量ピルの広報機関であるOC情報センターによると、実際にユーザーの約95%が満足しているという。

 今後、ピルコンは医療機関や、女性の社会進出・CSRに力をいれている企業と提携し、ピルをより身近な存在として認知させるためにピルに関する商品の共同開発を試みたいという。また、遠見さんも「医師として働くまでの限られた時間の中で、できるだけ多くの若者たちに講演活動を続けたい」と話す。

 テレビやネット上で性の問題が話題になりやすい時代だからこそ、わたしたちは互いの身体について正しい知識を持ち、無関心によって引き起こされる悲惨な現状にもっと真剣に向き合うべきなのだ。一度きりの大切な人生を台無しにしてはならない。

(工藤真理恵・舟橋美奈子)