アグリゼミを担当する林美香子特任教授(中央)
アグリゼミを担当する林美香子特任教授(中央)

TPP加盟の是非を巡り、国内農業再生にも注目が高まっている。

慶大大学院SDM研究科で農業・環境を多角的に研究するアグリゼミ。今回はゼミを担当する林美香子特任教授に、若者が「農村地域で活きる」ことについてお話を伺った。

林教授は「農村地帯には、生産をする現場としての機能だけでなく、観光・教育・癒しなどの多面的機能がある」とし、農業について「昔ながらの良さに加え、イノベーションの可能性も大きい。生産に留まらず、アグリビジネスという形でさまざまな広がりをみせている」と、その魅力を語る。

若者が新しい考え方を持って取り組めば、新たな可能性も生まれるという農業ビジネス。しかし現在、特に新規参入の若者が抵抗無く農業を始める環境は十分に整っているとは言えない。高齢化や後継者不足の問題は根深く、他の産業に比べてIT化が遅れているのが現状だ。林教授は、「『持続可能な農業』に向けたさまざまな取り組みを進めていくべき」と語り、その例として機械化が急速に進む農業技術や販売・経営戦略など幅広く勉強ができる場を作ることを挙げた。

先月政府がまとめた「農業再生のための基本方針・行動計画案」についても「大規模化や法人化の推進は画期的な方策ではあるが、日本の中山間地域にある小規模農業なども含めて、より多様な農業のあり方を考えていくことが必要。財源的な裏づけもさらに進めていくべき」と今後の政策の充実に期待を寄せた。

林教授は、農業そのもので生計を立てることは難しくても、農村で暮らすなど、若者が幅広くかかわっていく方法を模索することが重要だと話す。「『半農半X(エックス)』という言葉がある。農業と同時に他の仕事(X)をし、暮らしに農を取り入れる。それは都会にいてもできること。休日を利用してグリーンツーリズムを楽しむのも良い」

最後に「農村と都市は敵対する存在ではなく、互いに必要とされるもの。都市が近づき、共生すれば、それぞれがもっと豊かになれるはず」とした上で、「都会育ちで、大企業志向の強い慶大生だからこそ、まず農村に足を運び、その素晴らしさに気づいてほしい」とメッセージをいただいた。

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実際に、夏休みを利用して北海道の農家でインターンシップを行なった塾生がいる。藤瀬春那さん(経2)は「自分の目で国内農業の現状を確かめたい」との思いから参加を決意。夫婦で有機栽培を営む農家の合同法人化事業に伴う、新たな経営戦略・作付カレンダーの作成に携わった。

日本では、生産者と経営者が異なるという合同会社はまだ一般的ではない。「農家の野菜へのこだわりと収益性のバランスをとることに苦労した」という彼女。だが、「上手くいけば新たなモデルとして各地で応用できるかもしれない」と期待も大きい。

学んだことは実務に関することだけではない。豊かな自然や温かい地域住民に囲まれて過ごした1カ月。「自然に囲まれて暮らしてきた人々は工夫することがすごく上手。不便さを環境や他人のせいにしない。どんなことがあっても自分の力で乗り越える『生きる知恵』を身につけることが大切だと感じた」と、今後の生き方を考えるきっかけを得たと語ってくれた。

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最終回を迎える本連載は、さまざまな視点から「地域で活きる」ことを考えてきた。東日本大震災を機に、地方に足を運ぶ都会の学生が増え、地域のきずなも見直されている。第1回の「若者を受け入れる地方自治体」、第2回の「若者と地域をむすぶつなぎ役」、そしてなにより、地域で夢を追いかける熱意ある若者の存在は、復興を目指す日本にとって大きな財産だ。私たち塾生も幅広い視野を持って自分の活躍の場を見つけ、都会で活きること・地域で活きること、どちらを選択することになっても、日本を支える地域社会にかかわり、貢献する方法を考えていくべきではないだろうか。

(竹田あずさ)

写真は林教授提供