昨年春。接戦の末に慶大が東海大を下し、代々木第二体育館いっぱいに「若き血」がこだましたのは記憶に新しい。今年度も大学バスケのシーズンが開幕した。関東大学バスケットボール選手権大会(関東トーナメント)。秋のリーグ戦、初冬のインカレに並び、主要3大会の中でも最初に開催されるこの大会では、新体制となった各チームの真価が問われる。
 今大会の慶大の成績は準優勝。決勝では今大会最有力視されていた青学大に90―77で敗北したものの、初戦の立大戦から準決勝の筑波大戦まで、4戦連続100点ゲームを達成するなど健闘した。
****************************************

「チームが少しずつ変わりつつあります」
 佐々木ヘッドコーチは語る。今季の慶大は田上(昨季主将)・小林(昨季副将・日立サンロッカーズ所属)の2本柱を欠いたことによる失速が懸念されていた。ところが、終わってみれば堂々の準優勝。当初の懸念は全くの杞憂に終わったと言えよう。
 佐々木ヘッドコーチの言うとおり、今大会慶大にみられた“チーム再躍進の兆し”。それはいかなるものであったか。

4年生の自覚と責任
新�ャプテンとしてチームを牽引する二ノ宮
新キャプテンとしてチームを牽引する二ノ宮

「やっぱり4年生の自覚責任というもの、背負っているものが本当に違ってくるので」(#7岩下・4年・芝)
「4年生を筆頭にチームを支えていくつもりで」(#4二ノ宮・4年・京北)
「4年生が率先してできたことがチームを盛り上げる結果となったと思います」(#5酒井・4年・福岡大濠)

 今大会、二ノ宮、岩下、酒井の4年生トリオが非常に安定してプレイできていた。佐々木ヘッドコーチも「新チーム始まって大きな課題だったのが、4年生がフラフラフラフラしてたんですよ。でも2試合目ぐらいから3人がキチっとまとまって、試合で額面通りのプレイができて。それが二ノ宮のルーズボールだったり大事なところのスリーポイントだったりというところに出てますので」と、4年生を高く評価した。
 また、インタビューの中で3人は口を揃えて「4年生」という言葉を強調した。3人が最後の年にかける想いと自覚、責任は、このような些細な部分にも表れた。
 どのチームでも、4年生の選手はチームの精神的な核となる。二ノ宮、岩下、酒井の4年生トリオのまとまりが非常に良いということは、今季の慶大の大きなアドバンテージであると言えよう。

新たなる戦力
ルー��ーながらスタメン出場を果たした蛯名
ルーキーながらスタメン出場を果たした蛯名

 佐々木ヘッドコーチが「よくやってくれました。額面通り」と太鼓判を押すのが、ルーキーの蛯名(#19・1年・洛南)だ。準々決勝の中央大戦ではスタメンに起用されるなど、チームへのアジャストはばっちり。準決勝の筑波大戦では蛯名のディフェンスからリズムを作る場面が何度も見られた。
 当たりに負けないフィジカルの強さと明晰なバスケット頭脳に定評のある彼だが、キャプテンの二ノ宮が「元気があってすごく良い」と言うように、チームを活気づける溌剌(はつらつ)としたプレイスタイルは蛯名の天性の持ち味。自身のプレイスタイルについて聞いてみると、「先輩たちが引っ張ってくれる部分が大きいんでそんなに意識することなく、やっぱ1年生なんで、がむしゃらに少しでもチームのプラス要因になれれば」とあどけない笑顔を見せた。
 決して自らガツガツと点を取りに行くタイプではないが、蛯名が出場することでチームの雰囲気が明るくなる。フレッシュなルーキーの存在が、上級生への刺激ともなっているようだ。

家治の急成長
今大会覚醒した家治
今大会覚醒した家治

 今大会で慶大の得た最も大きな収穫、それはフォワード家治(#17・2年・春風南海)の急成長だ。今大会の家治の個人成績をみてみると、4試合に出場して91得点。1試合平均は22.75得点。これは、得点ランキング第3位につける好成績である。
 昨季、シックスマンとしての役割を任されていながら十分にチームに貢献できなかった家治。そんな彼が、今大会で一気にエースの座に近づいた。彼を変えたもの、それは、“自覚”。
「家治は大祐さん(昨季副将小林)がぬけて、自分が点とらなきゃっていう意識がすごい伝わってきます。プレイも強気で、自分の役割を全うしてくれようとしてくれるんで、今大会すごい成長してくれたと思います」(二ノ宮)
「試合を追うごとにゲームのスピードが出てきました、家治は。ディフェンスにしても、オフェンスにしても。もしかするとポイントゲッターというかスコアラーになる可能性を少し自覚したんだと思います。ここ2試合ぐらいは速攻であいつが走る場面がありましたので。あれを少しやってくれれば、大祐とか田上の穴は、まぁ片方ですけど埋まりそうです」(佐々木ヘッドコーチ)
チームの精神的支柱であった田上が抜け、絶対的エースであった小林が抜け、チームに空洞ができた時に、家治の中にエースとしての自覚が生まれたのかもしれない。
「ポジション的に僕が大祐さんのポジションに。ボールをもらったら常にリングをみて、攻める意識は常に持って。いけるところはガンガンいって。僕がもっと意識して先頭きって走れたらいいなと思います。もしセットプレイで最後のシュートが自分になった時はそれはチームのシュートなので、絶対決めようという意識でやっているので」(家治)

****************************************

 前述したとおり、今季の慶大は田上と小林が抜けたことによるチームの崩壊が懸念されていた。しかし、逆に2人の抜けた穴をカバーしようとする意識がチームをここまで進化させたのかもしれない。4年生の自覚と責任、新たなる戦力、家治の急成長。今大会、慶大は確かにチーム再躍進の兆しを見た。

(2010年6月22日更新)

文 井熊里木
写真 金武幸宏、井上史隆、劉広耀
取材 金武幸宏、井上史隆、劉広耀、井熊里木、昼間詩織、金イェスル、中村裕貴、藤瀬春那