裁判傍聴はさまざまな人間模様が間近で見られる場だ、と語る高橋ユキさん。2005年頃より日常的に裁判傍聴に足を運び、現在はフリーライターとして事件に関する記事などを執筆している。

そもそも裁判傍聴とは、法廷で行われる裁判を見ること、聞くこと。公開の法廷で行われるものは、特別な手続きをせずに誰でも傍聴することができる。

高橋さんが傍聴を始めたきっかけは、うつ病になり、「人生終わった」と感じた休職中のことだったという。仕事に関係のない、ノンフィクションの本を読み漁った。その中の一つが事件に関するものだった。読み進めると、実際に裁判を行っている事件がいくつかあり、せっかくの機会だから東京見物の一環として行こう、と思い立ったという。

最初に見た裁判は判決の言い渡し。被告人の話を直接聞くことができず、消化不良だったが、開廷表を見ると別の事件があった。宗教にハマった女性が保険金目的で自身の父親殺害を企てた事件。関係者の証言はそれぞれ異なった。「何が本当なのだろう、と推理することにハマってしまったんですよね」と高橋さんは語る。

そこから窃盗罪、覚醒剤使用罪などの小さなものから、ニュースで報道される大きなものまで、さまざまな事件の裁判に足を運んだという。裁判では、報道では知ることのできない、事件の深い部分に触れることができる。また、容疑者として逮捕された人物が被告人として最初に話す場に立ち会えるのも貴重な経験だ、という。

では、初めての裁判傍聴をする人が必要なものなどはあるのだろうか。「どんな格好で行っても大丈夫ですし、職員の方が何でも教えてくれるので心配はいらないですよ」と高橋さん。その日に行われる裁判の時間割のようなものである、開廷表を見て、興味のあるものを傍聴するそうだ。その他にも、事件の選び方は多様である。傍聴人が列を成している事件にふらっと並んでみたり、友達となんとなく選んだりすることもある。事前の知識がないからこそ、驚きが多い。

刑事裁判の流れを知るためには、最初に傍聴するものは小さな事件が良いそうだ。1時間程度で終わる、新件と呼ばれる初公判の事件は、初心者におすすめだ。そもそもどのような手続きを踏んで裁判が行われているのか、その裁判が何をしているものなのかなど、基本的な部分を知ることができる。

傍聴で注目する点はあるか尋ねると、被告人の表情だと教えてくれた。証言台に立つ被告人の姿を見ることで、感じるものが多くあるという。「こんなにもプライバシーが丸裸にされるのかと分かるだけでも、犯罪はやめようと思うはず」と話した。

今後も裁判傍聴に足を運び、新聞やテレビでは報道しづらい部分を伝えていきたい、と高橋さんは言う。「逮捕されて起訴されて、裁判になるとどうなるのか、見ておくことは社会勉強になると思います。犯罪が意外と身近にあること、大人になっても親や身近な人たちに迷惑をかけてしまう被告人を間近に見ることで、家族や友人にも優しくなれるんじゃないかな」と語った。

被告人として裁判に立つ人を生で見ることは、社会に出る前の大学生にとって大きな学びになるだろう。特別な準備も必要なく、空いた時間に立ち寄ることができる。興味のある人は、足を運んでみてはいかがだろうか。

(角谷理生)