医学部の福田恵一教授、金澤英明助教らのグループは、心不全の状態で心筋から分泌される因子により、心臓を支配している交感神経が副交感神経に機能転換することを発見した。この機能転換の結果、心不全患者の生存率が高まっていることも判明。心不全治療の改善に画期的な影響をもたらすことが期待される。
心臓はヒトの身体に血液を送り込むポンプとしての役割を果たし、その機能は交感神経系と副交感神経系の間のバランスによって制御されている。交感神経系はノルエピネフリンを産生して心臓の収縮力を高める役割を、副交感神経系はアセチルコリンを産生して心臓の収縮力を低下させる役割を担っている。
種々の心臓病やその他の原因により、心臓に何らかの異常が起こって心臓の収縮力が低下し、血液の循環が滞った状態を心不全という。心不全になると心臓の収縮力を高めようとして交感神経が興奮し、ノルエピネフリンを分泌する。
しかし、慢性的に心不全になると、交感神経の興奮が確認できる一方、ノルエピネフリンの分泌は低下することが観察される。この現象は、心不全時に観察されるパラドックスとして広く知られていたが、原因は不明だった。
今回、心不全の状態では、心筋から分泌されるLIF(白血病抑制因子)の刺激によって、交感神経が副交感神経に機能転換し、アセチルコリンを産生することが明らかになった。この機能転換により、心臓の収縮力を高めようとする交感神経の過剰な刺激を抑制し、弱った心筋を保護する作用が働くため、結果的に患者の生存率は高くなる。
心不全の症状には、倦怠感や呼吸困難、運動能力の低下などがある。患者の多くは投薬により長期間の生存が可能だが、病状診断後約70%の人が10年以内に死亡するとされている。
今回の発見により、心不全治療法の見直しや治療薬の開発が期待される。また、交感神経が副交感神経に機能転換するという極めて予想外の現象が確認されたことで、身体の仕組みの見直しにつながると考えられる。