今回のギモン

『日本人の味覚は世界一 ―「旨味」のわかる驚異の味覚はどこからきたか』など食に関する書籍を多数手掛けた、通称「味博士」の鈴木隆一氏。慶大から出資を受けて設立された企業であるAISSYの代表取締役社長を務めている。今回は、彼に「味覚」に関する疑問をぶつけてみた。

 

AISSYとは

AISSYはあらゆる飲食物を5つの味(甘・塩・酸・苦・旨)に分解して数値化できる味覚センサー「レオ」を軸に、食品飲料メーカーの商品開発を手助けしている。

この「レオ」にはAIが搭載されていて、「次はこのような味が売れるだろう」という予測が可能である。商品開発の際には数年後のマーケットを考える必要があり、味の予測ができる「レオ」は多くの企業からのニーズがあるのだという。

 

味覚の獲得と変化

そもそも人間が「味」を感じるようになったのはなぜだろうか。それは、「有益なものをとって、無益なものを取り除く」ということにあるという。つまり、体にとって必要なものを見極め摂取するために味覚が発達したのである。味覚が乏しい個体種は生存することが不可能で、我々人類が今も生存できている理由の一つに味覚があるという。

そして、一人一人の味覚が異なる理由は、遺伝的要因というよりも、子供の頃の食経験で決まることが多いと考えられている。人間には「少し新しい味を好むが、全く新しい味は好まない」という性質があり、味覚は今まで食べてきたものに大きく左右される。だが、少しずつ体に摂取する食物の種類の範囲が広がることで味覚が変わっていく。

このことは好き嫌いも同様で、好まない味のゾーンに近い味のものを徐々に摂取することで克服できるそうだ。

 

日本人の味覚

また、日本人の味覚に関しては「旨味」の感じ方が世界一であると鈴木氏は話す。それは、海に囲まれ海産物が多く獲れる日本の地理的要因が関係しているという。カツオ・昆布などのダシとなる食材、すなわち素材の「旨味」を生かす食材を多く調理することが、日本人の味覚を独特にしたのである。

 

おわりに

人間の感性が重要視される食の世界を、あえて科学的に捉え直すことを原点に研究を始めた鈴木氏。「食」は現代社会の人間にとって必要不可欠かつ楽しみの1つであり、その可能性を最大化できることに研究の価値があるという。人間の神秘、味覚を利用した新しい取り組みに、今後も目が離せない。

(浅川力哉)