大学受験を経験した誰もが、一度は手にする本が「赤本」である。

正式名称は『大学入試シリーズ』。過去数年分の大学入試問題と解答を掲載する、言わずと知れた大学受験のバイブルだ。慶大生ともなじみの深い赤本の秘密を、世界思想社教学社編集部の塚本匠さんに聞いた。

 

世界思想社が創設されたのは今から約70年前の1948年。初期に出版した本としては、「滝川事件」という思想弾圧事件で京大を追われた瀧川幸辰が著した『刑法読本』などがある。その後、教育図書出版部門として教学社を併設し、1954年から『大学入試シリーズ』を刊行する。

創刊当初は表紙の色に「赤」という決まりはなく、青や緑もあったという。取り扱う大学が増えていくごとに柿色、朱色、と赤味が強くなり、現在では真っ赤な表紙が定番となった。塚本さんは、「はっきりとした理由は不明ですが、書店でもよく目立ち、受験生のやる気をかき立て、かつ縁起の良い色として赤が選ばれたのではないかと言われています」と話す。

 

長年、数多くの大学入試問題に向き合い続けている教学社。近年は、単に知識を問うだけでなく、応用的な思考力や判断力を問う問題など、幅広い出題が見られるという。

慶大の入試問題に関しては、非常に個性的で、大学のカラーや学部ごとのポリシーがにじみ出ていると分析する。「ある意味では、受験生にどのように勉強に取り組んでほしいか、というメッセージが込められているようにも思えます」

教学社が赤本を作るにあたって大切にしていることは、受験生の体験談や声に寄り添うことだという。毎年募集しているメッセージをもとに、スケジュール管理ができる『赤本手帳』、消化に良い料理や頭の働きを助ける料理を紹介する『奥薗壽子の赤本合格レシピ』など、新しい取り組みを行っている。

 

「大学受験で学んだ知識や文章がきっかけとなって、様々な発見をしたり、新たな興味を持ったりすることがあると思います」。塚本さんは、受験の意義をこのように話す。

「少し大げさかもしれませんが、試行錯誤を重ねて困難を乗り越えた経験が、将来なんらかの形で人生の支えになるのではないかと思っています。大学に入ってからも、この経験を忘れずにいてほしいです」

(松尾美那実)